新装「恋しき」、眺めや料理で活況…旧料亭旅館が府中の〝迎賓館〟に
広島県府中市府中町にある国登録有形文化財の旧料亭旅館「恋しき」が市によって改修され、建物内に料亭「そ 恋しき」が開店した。福山市出身の作家井伏鱒二をはじめ文化人らが常連客だった由緒正しき伝統と歴史を受け継ぎながら、府中市の“迎賓館”としての役割も担い、活況を取り戻そうとしている。(新居重人)
「恋しき」は1872年(明治5年)に原型となる旅館が創業し、計約2500平方メートルの敷地内には、木造3階建ての本館と、間近に回遊庭園(約1000平方メートル)を楽しめる木造平屋の離れ4棟がある。
落ち着いたたたずまいが好まれ、井伏のほか吉川英治ら作家が滞在し、名作を書き上げたという。だが、時代や生活様式の変化で旧来の料亭旅館の需要は減り、1990年に惜しまれつつ廃業した。
建物群は創業者子孫の手で大切に維持され、2004年には国の登録有形文化財になった。永続的な保存と市のランドマークとしての活用を目指し、市は20年に土地と建物を購入。その一環で、庭園を眺めながら、豪華な食事を楽しめる料亭を整備した。
総料理長には、広島市東区で全国に名高い日本料理店「喜多丘」を営む北岡三千男さんを迎えた。屋号の「そ」は「塑・素・想」を意味し、押しつけでない心地よいおもてなしを提供し、府中市の魅力を引き出し、その歴史を伝える場所にしたいという思いを込めた。
4月のオープン以降、約300人が利用したといい、約35年間のホテル勤めを生かし、料亭の管理などを担う掛江肇さん(77)は「雰囲気と料理を楽しむため、著名な文化人やインフルエンサーも来てもらえるようになった。予約も順調」と話す。小野申人市長も「恋しきを楽しんだ後、街並みなど府中の魅力を感じて」と期待を込める。
7月14日には、料理評論家の山本益博さんがプロデュースする「恋しき落語会」を開催。本館2階の大広間で、明治時代の建物の魅力を感じながら落語家・柳家花緑さんによる古典落語「柳田格之進」を楽しみ、料亭の特製弁当を味わう趣向で、チケットは6月26日の発売直後にほぼ売り切れる人気ぶりだ。
料亭の営業日は水、日曜と祝日。昼の部が正午から、夜の部は午後6時から。懐石料理(税、サービス料別1万3000円)を提供し、予約が必要。建物見学は無料。問い合わせなどは「恋しき」(0847・41・5140)へ。