“おせち文化”と“旬の恵み” フジッコ・丹波黒育成体験プログラム~行事食研究家・小宮理実さん
食品大手・フジッコ株式会社(神戸市中央区)が、大粒の黒大豆「丹波黒」を苗植え・手入れ・収穫までの農業体験と、プロの料理長がおせち料理の黒豆を伝授する「丹波黒育成体験プログラム」を開催した(2024年6~12月)。 【写真】この記事の関連写真を見る 丹波黒を育てる創業290年の老舗・小田垣商店(兵庫県丹波篠山市)と神戸ポートピアホテル、フジッコがタッグを組んだ“学び”の体験、大人も子どもも発見の連続だった。 小田垣商店の山本哲さんは、「丹波黒は、作付けから収穫までの期間が世界一長いとされている。生産者の喜びや苦労も知ってもらいたい。丹波黒が紫色の花が咲き、枝豆から黒豆になる過程を初めて知ることが大切」と訴える。 山本さんは続ける。「土と寒暖差、そして適度な雨の恵みが大きな丹波黒を実らせる。特に毎年9月終わり頃からの丹波篠山は霧が出て、朝は冷え込み、昼には気温が上がる。雨が少なく気温が高かった今年(2024年)のように、実の太りが遅れるようなこともある」と、自然の厳しさを話した。 黒豆といえば“おせち”。家庭で作る機会がめっきり減った昨今、季節を味わう楽しみについて行事食文化研究家・小宮理実さんに聞いた。小宮さんはプログラムの最終セクションで「おせち文化」について講義した。 ・・・・・・・・ 子どもたちが「丹波黒」を育てて収穫、最後はどのように調理するかを体験する貴重な機会に恵まれた。とりわけ2000年代初めに、『食育』の重要性が叫ばれて久しいが、昔のように“一汁三菜”というスタイルは現代生活では難しい。“一汁一菜”が主流になってしまった。 今はスーパーや百貨店で販売されている惣菜のレベルが高いので、これにプラスして1~2品をご自宅で作るのがベストの形かも知れない。 丹波黒の“サヤ取り”をした子どもたちは、夏場に紫色の花が咲き、青々と大きく実った豆が、軍手を着けなくては作業が進まないぐらい乾燥して固くなるという変化に驚いた。 食材を目で見て触れるという体験が、参加した親子にとって貴重な思い出になるに違いない。鮮魚は切り身で販売される時代、子どもたちには一匹の魚をさばくという概念がなく、さまざまな魚の姿もイメージできない、そんな時代だからこそ、農作物をはじめ、食するものと向き合うことが大切だと思う。 簡単に美味しくという時短料理が推奨される中、鍋でコトコト煮詰めることが少なく、調理が難しい豆料理。 年配になるにつれ、甘い豆を食する機会が増えてくるという。「タンパク質が豊富なため、体が求めるのは、理にかなっているのかも知れない」と指摘する。 小宮さんが行事食文化研究家として思うのは、「核家族化し、“おばあちゃんの知恵”に触れる機会がなくなったこと。季節ごとに何を食するのか、旬のものは何かを、それとなく伝授してくれた時代は、実は大人世代への食育だったのかも知れない。親から子へ、子から孫へ…。 今、日本を訪れる海外観光客は大幅に増え、日本で暮らす外国人も多くなった。こうした中、日本に住む人々が、日本の食文化をしっかり語れるようになれば」と願う。 ・・・・・・・・・ フジッコ・新村剛広報部長は、「主力商品が豆と昆布という和食の食材を扱うフジッコは、生活習慣病を引き起こす“現代型栄養失調”という、食物繊維やタンパク質、カルシウムが不足している現状をどう打破するかを社会課題として、豆を食べて健康になってほしい」と、プログラムの意義を語った。 フジッコのコア事業本部・豆事業部の計篤志さんは、幼い頃から豆が嫌いだった。「だからこそ、美味しい豆を食べてもらえるためにどうすれば良いか、真剣に考えた。大豆や金時豆、黒豆の消費量は、かつてに比べると減っている。“商品を選択できるような”バリエーションをつけた開発を進めたい。何せ、豆は“畑のお肉”と言われるぐらいだから」と話す。 調理が難しい豆料理。煮る際の水分調整に味付け、薄皮が破れないように見た目も美しくするにはどうすれば良いか。 参加した親子に向けて調理を実演した神戸ポートピアホテル・和食統括料理長の北原省吾さんは、「豆を炊く時は、子どもを抱きかかえてお風呂に入れるように、やさしく扱う気持ちが大切。手を抜くと、子どもは泣いてしまう。豆に対しても、手を抜くと皮が弾けてしまったり、シワが寄ったりする。ひとつひとつの過程を丁寧に」とアドバイスを送る。 ベテラン料理人の北原料理長にとってこのプログラムを通して気づきや学びがあった。「例えば盛り付け。子どもたちの柔軟な発想、感性の鋭さに驚かされる。彩りや盛り付け方。(自身が修行した時とは異なる)新たな考え方やアプローチを知ることができた」と微笑んだ。 「子どもたちに、飛び切りの体験を」というフジッコの思いは、実は大人たちへの“食育への気付き”に向けてのアプローチなのかも知れない。 日本には四季があり、長い歴史の中で季節ごとの食文化が培われてきた。 子どもたちが半年にわたって出会った人、自然、そして「食」。将来、必ずそのシーンがよみがえるはず。 あらためて考えたい、私たちの日常。参加した子どもたちは、きっと食文化の伝承を担ってくれるに違いない。
ラジオ関西