アメリカにいながら日本のベストバウトを狙う――DDT3・17後楽園にAEWから“来日する”KONOSUKE TAKESHITAに直前インタビュー
全打席ホームランを打たなければならないプレッシャーの中で
――ボーダレスで夢の顔合わせがどんどん実現している現在のAEWと比べると、そこは温度差が生じますよね。 TAKESHITA もっともその分、僕のような人間は実際に頑張れるかどうかの瀬戸際でもあるという。今回、オカダ・カズチカさんがAEWに入団するとなって、それまでは日本人の大型レスラー枠は僕だけということで毎週なんとか試合を勝ち取ろうとしてきましたけど、オカダさんが入ったことで僕の出る枠は少なくなると思うんですよね。見ている人からすると、いろんな夢のカードが見られて楽しみが多くなるんでしょうけど、スタメンに入るかどうかギリギリのところで何ができるかというのが自分のテーマになってくる。ベンチにいて、代打に指名されたらヒットじゃダメ、全打席ホームランを打たなきゃいけないプレッシャーです。今回のウィル・オスプレイ戦もそうでしたけど、それって貴重な経験ができているなって思うんですよね。 ――我々の目には順調にしか映っていないんですが、自身としては常にギリギリという認識なんですね。 TAKESHITA 常にそういう危機感は持っています。オカダさんやオスプレイと僕が違うのは、スタートの時点でスタメンが確約されている状態で来たのかどうか。僕はファームから始まっているんです。それでなんとか二軍で成績を残して、一軍には入ったけどまだスタメンではなく、ベンチでチャンスをもらっている立場なんで緊張感、集中力は常に欠かさず持っている。試合のクオリティーを上げることよりも、その方が大変です。それは日本を出て海外を経験している人ならわかると思うんですけど。 ――3・3のオスプレイ戦は何を感じましたか。 TAKESHITA すごく手応えがあったかというとそんなことはなかったんですけど、周りの評価は自分がビックリするぐらいよくて。次の日、会場で選手、スタッフ、レフェリー、カメラクルーにいたるまで全員一人ずつに声をかけられて。あれはこっちに来て初めてでしたね。レスラーに言われたのは「これからタケシタとオスプレイは何度も闘っていくかもしれないのに、最初にあれほどの試合をしちゃったらどうやってハードルを越えるんだ?」と。いやいや、まだそんなにやりきっていないんだけど…という感覚。だから2回、3回とやればもっとできるんじゃないかっていうのが感じたことになりますかね。 ――これまでのケニー・オメガ戦、クリス・ジェリコ戦、あるいはジョン・モクスリーやブライアン・ダニエルソンの時のように、自分はここまで来たんだという達成感のようなものは芽生えましたか。 TAKESHITA これまでは「俺もこれほどの選手と対戦するまでになったかー」っていうのはありましたけど、オスプレイに関してはさっきの話に戻りますけど同世代レスラーなんで、すごいトップ選手と闘うというよりライバルになるんじゃないかっていう感触だったんです。これはポストもしたんですけど「プロレス人生12年やってきてやっとライバルを見つけた」っていうのが実感でした。 ――12年やってきて初めてのライバル。 TAKESHITA リング上のパフォーマンスもそうだし、試合に向かうにあたっての準備もそうだし、フィジカルからプロレス頭とか、試合中のスピリットというか、絶対こいつには負けないっていう意識。アスリート的な強さに関してはアメリカに来てそれほど感じる機会はなかったんですけど、オスプレイは最初からそういうものを感じましたよね。ハイフライムーブでいったらもちろん僕よりも上だけど、パワーだったら僕の方がちょっと上でっていう認識の中で、プロレスラーはだいたいそうなんですけどこいつだったら響くなっていうのが直感でわかるんですよ。そこに関しては今回、対戦するよりずっと前から感じていたことで。彼が僕を初めて見たのは2019年で、DDTの後楽園で僕とクリス・ブルックスがやった試合だったそうなんです(7月21日、KO-D無差別級王者・竹下にクリスが挑戦)。同じイギリス人として初めてDDTを見に来たらしいんですけど、その時に「いつかあいつと試合をしてみたい」と思っていたらしくて、僕は僕でケニーさんの新日本プロレスでの試合を追っていく中で、そこに現れたオスプレイの存在をずっと見てきて、年も近いしいつか試合したいなと思っていた。DDTでできるかな、新日本プロレスでできるかなと思っていたら、まさかのAEWっていう。これってやっぱり運命なんだ。僕たちはこの道を選んで、その道が正解だと信じて歩んで実際にそこで交わっているわけなんだからっていう思いがありますよね。 ――前回のインタビューで、TAKESHITA選手が世界一を目指す中、今実際に世界一のレスラーの一人として存在するのがオスプレイだと名前を出していました。“物差し”を得たことによって、世界一が漠然としたものではなく形として提示できるシチュエーションになったのだと思います。 TAKESHITA そうなりますね。本当に僕は世界一のレスラー=オスプレイだと思っているし、プロレスラーも投票するアメリカ版のプロレス大賞的なものがあるんですけど、そのMVPにオスプレイがなっている。その選手と対戦して(世界一は)遠くないなと思いました。 ――“同僚”となったオカダ選手とは現地で顔を合わせたんですか。 TAKESHITA オカダさんはあの日、隔離されていたんで僕らもファンの人と一緒でした。噂で今日、登場するって言われているけど…と選手同士で話していましたね。一つの事実として、お互い同じ団体所属になっている。それだけで僕は面白くなってきたなって思います。オカダさんがAEWの「Forbidden Door」に来た時(2023年6月26日)に挨拶したり、オーランドの中邑真輔さんに会いに来た時、一緒に食事したりはしていますし、日本ではオカダさんがDDTに出られた時に控室で挨拶しましたけど、こっちではまだですね(3月9日の時点)。 ――その時は、まさか同僚になるとは想像もしていなかったと思われます。 TAKESHITA 僕がデビューした2012年が、レインメーカーショックの年だったんですけど、あの大阪府立に僕はいましたからね。目の前で棚橋弘至さんを破ってIWGPヘビー級チャンピオンになった瞬間をスタンド席から目撃して、すごいものを見た!って興奮して、自分もいつかこんなすごいプロレスラーにならなきゃって思ったのを憶えています。それから12年経って同じ団体に所属しているって、僕はそういう不思議な星のもとに生まれているんです。オスプレイ戦もケニー戦もそうだけど、自分には来るんだなって。 ――本当に、たくさんの物語という武器を持っています。 TAKESHITA それは長年…今もプロレスファンでいるからこそ得られる武器だと思います。そういう物語と並行して、僕はこっちにいながら日本のベストバウトを狙いますので、青柳選手もそのつもりで真っ向から勝負に来てくれるなら僕もその勝負に乗ります。どっちが強いか白黒ハッキリさせるというより、僕らの世代でこれからのプロレス界を盛り上げていくんだって伝わるものを見せますので、後楽園は大いに期待してください。そのハードルを越えますんで。 ――プロレス大賞のベストバウトもそうですが、DDTの大会でおこなわれるということは、大晦日の日本インディー大賞のベストバウト賞の対象にもなります。受賞したら年末、日本に帰ってくることになるわけですが。 TAKESHITA そうなったらありがたいですね。年末年始を日本で過ごすことを楽しみに、ちゃんと帰ってきますから。
週刊プロレス編集部
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