世界トップランカーが相次ぐ乱調で「波乱の初日」 笹生優花のグリーン上の粘りにあっぱれ【石井忍の目】
<全米女子オープン 初日◇30日◇ランカスターCC(ペンシルベニア州)◇6583ヤード・パー70> 12番パー3の傾斜がやばい【写真】 海外メジャー第2戦「全米女子オープン」は初日の競技が終了した。“世界一決定戦”に日本勢は21人出場するなか、リーダーボードの最も上に名前を乗せたのは笹生優花。2アンダーで単独首位発進を決めた。アンダーパーがわずかに4人という難セッティングで、日本勢も奮闘している。初日の戦いについて、大会を中継するBS松竹東急(全国無料放送・BS260ch)で解説を務めた石井忍に聞いた。 ■12番パー3に際立った難しさ、平均スコア『3.800』 メジャー大会によくあるフェアウェイが劇的に狭い、ラフがスネまである…という様子には見えないが、アンダースコアはわずかに4人のみ。平均スコアは『75.212』と5オーバーを超えた。その理由について、「グリーン周辺の難易度が高いからだと思う」と分析する。例えば選手が納得したように見送ったボールが、グリーンに乗ったのちに細かいスロープで手前まで戻って来たり、逆にオーバーすれば下り傾斜に向かってねちっこいラフから寄せる必要がある。いかにパーオンさせて2パットでしのぎ、そしてチャンスを決められるか。これがスコアメークのカギになる。 そんなタフなメジャーコースで、その難しさが「より際立っていた」のが12番。実測161ヤードの打ち下ろしのパー3だが、ここの平均スコアは『3.801』だった。一時は平均4を超えていたほどだ。「4に近いアベレージのパー3は見たことないですね。難しすぎる」とただうなるしかない。 花道とグリーンの境界線かのようにクリークが流れ、グリーンは奥から手前にかけてゆるい下り傾斜がある。奥にはバンカー。河本結や渋野日向子らはティショットをこのクリークに落とし、ネリー・コルダ(米国)は3度の池ポチャで“悪夢”の『10』という大たたきを喫した。 例えば、これが130ヤードほどでミドルアイアンで打てるのならここまで難しくはならないだろう、と石井氏は言う。「距離が長いからこそです。ギリギリを狙うと池に入ってしまうし、エッジをクリアしようとすると跳ねて奥のバンカーに入ってしまう。奥正面のバンカーだと、グリーンの下り傾斜に対して真正面になってしまうので、寄せるのは難しいですね」。 ネリーは奥正面のバンカーにつかまり、そこからグリーンをオーバーしてクリークへ。クリーク手前からの4打目は、左足下がりの手前ピンという状況になり、そこから2度もボールがクリークに捕まった。 ■波乱の初日に、粘りの笹生優花 ネリーはキャリアワーストタイの「80」でホールアウト。世界ランキング1位でここまで8戦6勝の“無双状態”を築いていたが、ランカスターの罠にはハマった。それはネリーだけではなく、今季ポイントランキング上位者にも当てはまる。今季2勝でランク2位のハナ・グリーン(オーストラリア)と同4位のマヤ・スターク(スウェーデン)は6オーバー・96位。リディア・コ(ニュージーランド)とブルック・ヘンダーソン(カナダ)はネリーと同じく137位に沈んだ。 ポイントランクトップ5が大苦戦。石井氏も「それだけ難しいということです。波乱の初日になりましたね」と驚きを隠せない。 そのなかで、2アンダーの単独首位発進を決めたのが笹生。2021年覇者が圧巻のプレーを見せた。5つのバーディを奪ったアグレッシブなプレーはもちろんだが、それを生み出した「粘り」を称賛する。首位タイで折り返した直後の10番から2.3メートル、4メートル、4.5メートルのパーパットを決め続けた。「渋いパーパットを決めて、ガマンして、そして連続バーディ。典型的ないい流れのつかみ方をしていました」。パーを重ねると15番からは連続の“ご褒美”があった。「さすがメジャーチャンピオンですね」と脱帽する。 とくに、パッティングが好調だった。パット数は27回で、ストローク・ゲインド・パッティング(パッティングのスコア貢献度)は『+6.01』で全体1位。「昨年の途中からパターをマレット型に替えました。その良さも際立っていましたね。2勝目が来ないというもどかしさもありながら、いいプレーでした」と、引き続きグリーン上のパフォーマンスに注目していく。 ■渋野日向子らも好発進 日本勢Vに期待 ほかの日本勢も負けてはいない。首位と2打差に吉田優利と岩井千怜、3打差に渋野日向子、河本結、古江彩佳がいる。「切り取ったところしか見ることができていないですが…」と前置きしながら、渋野のプレーについては「スイングのコンディションは良くなっているので、それがゲームにつながっていけば、感性は鋭いので、十分優勝争いに加わってくるのではと思います」と期待を込める。 2オーバーグループには山下美夢有、鈴木愛、小祝さくら、3オーバーグループには畑岡奈紗と西村優菜がいて、ここまでが5打差。このタフなコンディションを考えれば、残り3日間がより楽しみになってくる。「日本人選手の優勝が見たいですね。笹生選手だけでなく、チャンスはみんなにある」と快挙を願う。 そのためにも、重要なことはマネジメント。「頭のなかのチャンネルのモードを変えていかないといけない。パーを取らないといけないし、ミスをすぐに取り戻そうとするとダブルボギーになってしまいます。バーディ数がかなり少ないので、その分、ボギーの数も少なくしていかないといけない」。波乱の初日に、躍動する日本勢。カットラインとの攻防だけでなく、優勝争いからも目が離せない。