『ブギウギ』が現代に甦らせる芸能史 笠置シヅ子の転機となった『舞台は廻る』とは?
終戦から少しだけ時間が経った1946年。「福来スズ子とその楽団」の解散を決断したスズ子(趣里)のもとに、次なるステージへと駆け上がるチャンスが舞い込んできた。舞台への出演依頼である。 【写真】生瀬勝久が演じる喜劇王・タナケン しかもなんと、喜劇王・“タナケン”こと棚橋健二(生瀬勝久)が手がける作品だ。昭和の芸能史をも描いている朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)がまた大きく動き出し、スズ子の人生において、そして芸能の世界において、重要な“転換点”に立っているところである。 スズ子が出演することになったのは、レビュー劇団のドタバタを描いた喜劇『舞台よ!踊れ!』だ。歌って踊れる女性俳優はなかなかいないということで、スズ子に白羽の矢がたった。楽団を解散したいまがチャンス。彼女はエンターテイナーとしてここからさらに大飛躍できるかもしれないのだ。 スズ子以上に知名度のある大スター・タナケンと彼女の出会いはあまりいいものではなかったが、それについてはここでは置いておこう。気になるのは、舞台のその中身である。 『舞台よ!踊れ!』でスズ子が演じるのは新人女優の雪子。タナケンが演じるのは雪子が出演する舞台の演出助手である木下だ。“ドタバタ喜劇”だというのだから、雪子や木下の奮闘ぶりが笑えるものとなるのだろう。雪子と木下のポジションに注目だ。“新人”と“助手”ということから、ふたりが大変な役回りを押し付けられるであろうことは想像がつく。 第16週「ワテはワテだす」の第72話を観るかぎり、タナケンはスズ子にとってかなりの強敵になりそうだが、厳格な雰囲気とのギャップによって生まれる「笑い」もあるはず。それに、コメディ作品だからといって、舞台裏まで「笑い」に満ちているわけではない。本番で金銭と引き換えに客に「笑い」を提供するため、俳優たちは稽古を重ね、個々の技と作品そのものをブラッシュアップしていく。そんなプロフェッショナルな現場の裏側を観ることができるのも『ブギウギ』の面白さだ。 さて、本作はブギの女王・笠置シヅ子の人生をモデルにしたものとあって、昭和の芸能史に名を刻んだ人々をモデルとしたキャラクターがほかに何人も登場している。『舞台よ!踊れ!』への出演にスズ子を推薦した羽鳥善一(草彅剛)は、実際に笠置と数々の名曲を世に送り出した服部良一。タナケンは実在した喜劇王・エノケンこと榎本健一をモデルにしている。いまさら述べることではないかもしれないが、情報を整理するため、念のため記しておく。 昭和の芸能史をさかのぼってみると、1946年に笠置とエノケンは初めて舞台で共演している。タイトルは『舞台は廻る』で、作家は菊田一夫。終戦後に初めて服部と笠置がタッグを組んだのはこの作品でのことで、服部は同作のために「コペカチータ」という楽曲を書き下ろした事実がある。ということは、同作が『舞台よ!踊れ!』のモデルとなった舞台だとみて間違いないだろう。しかし、正式なあらすじまでは手に入れることが困難なため、果たしてオマージュを捧げているのかなどまでは不明だ。 ちなみに1948年には笠置が主演した映画『舞台は廻る』が公開されている。けれどもこちらは作家・久生十蘭によるもので、服部は音楽家として参加しているが、エノケンは出演していない。ふたつの『舞台は廻る』をリアルタイムで観ている人は、いまどれくらいいるのだろうか。そしてその人々は『舞台よ!踊れ!』を、どのように観るのだろうか。聞いてみたいものである。
折田侑駿