脚本家で演出家、上田誠のルーツを探る「ものづくりが好き、エンタメのなかのインドア派」
■ 昔のLマガ片手に「なんでこんなことを?」
──今回ヨーロッパ企画さんのことを調べているときに『Lマガジン』(注3)の最終号で、すごいページを作ってたのを見つけたんです。Lマガジンのことをいじり倒していて、これもすごいコンテンツだなあと思いました。 ああ! ありましたね(一通り目を通して)・・・なんでこんなことを書いたんやろう?(笑)昔Lマガジンで「Eマガジン」という、Lマガの特集に噛みつくというコンセプトの連載をやってたんです。今見ると、誌面を借りて大喜利をやってるだけのコーナーでしたけど。でもそんなことを、Lマガというちゃんとした雑誌でやるというのがおもしろい。KBS京都で放送している『(ヨーロッパ企画の)暗い旅』もそうですけど「なんでここで、こんなことをやってるんだ?」というスタンスを作るのが、どんなメディアに出たときも、やっぱり大事だと思います。 ──そう言われると『トキコイ』も、フッと「なんでこんなことをやってるの?」と我に返るような、不思議な感触のドラマでしたね。タイムマシンで物語の時間軸がどんどん変わるので「今私、どこにいるんだろう?」という、今まで感じたことのない気分になりました。 ああ、それはめっちゃわかりますし、うれしいです。カンテレのあの時間帯は、ギリギリ攻めたことをやってもよさそうな枠だったので「じゃあ、振り抜きましょう」みたいなことができました。結構ヨーロッパ企画のやり方に近い形で書けたので、そういうめずらしい空間が作れたと思いますし、コアなファンがたくさんできた作品になりました。ああいうちょっと特殊な、最大公約数的な番組じゃない番組の方が、深く刺さることってあると思うんです。こういう時間ものが好きなお客さんが、ジワジワと増えてくるかもわからないですね。 ──忘れられないドラマになりました。そうやってテレビをやっていて、一番おもしろいこととか、意識していることってなんですか? それこそ僕が演劇に興味を持つきっかけになった、三谷幸喜さんや維新派を初めて観たのが、どっちもテレビだったんです。大多数の人は、いきなり劇場には行かない。やっぱりテレビとか映画とか、劇場の手前にあるメディアで触れることが多いと思うので、僕らも新しいお客さんに触れるためには、やっぱり映像をやった方がいいなあと。しかも『トキコイ』や『暗い旅』のように、できるだけ自分たちの劇団のテイストに近い形のものを・・・実は『暗い旅』って、企画から撮影、編集まで全部自分たちでやって、完成したものをKBSさんにお渡ししてるだけなんです(笑)。 ──そんなことができるんですね! でもテレビって当然、視聴率を取らなきゃいけないとか、一定の枠のなかでやらなきゃいけないとか、演劇にはない制約がたくさんあって。演劇は完全に自己責任で、完全に自分たちの作りたいものをやれるんですけど、テレビってそういうものじゃない。視聴率を取るような戦い方をするのが前提で、それには今も苦労しています。でも『暗い旅』があったことで、テレビでも演劇のような作り方ができることがわかったし、ほかの局でも、自分たちの得意技に引き寄せた考え方ができるようになってきました。 ヨーロッパ企画や僕のやり方をわかってくれる方が、テレビ側にも増えてきて、それでちょっとずつやりやすくなってきた感じです。でも演劇に比べると、まだまだわからないことだらけ。単純に、やればやるほど映像が上手くなってきてる時期かなあと思います。