国内敵なし、日立「鉄道売上高」今期1兆円超えへ ドーマー副社長インタビューで判明した全軌跡
英国では2021年、ロンドンとバーミンガムを結ぶ高速鉄道路線向け車両の製造や保守をアルストムと共同で受注した。アメリカではSTSの技術を活用してハワイ州ホノルルで高架鉄道「スカイライン」が2023年に開業したほか、ワシントンDCでも3000億円規模の地下鉄車両製造を受注した。 日本流の生産手法を取り入れ生まれ変わったブレダの車両工場も欧州の鉄道製造に不可欠の存在で、イタリアなど欧州大陸向けは元より、英国向けの車両も製造している。「日本で開発し、イタリアで製造し、英国に送り込むという国際分業体制が整った」。
■大型M&Aは今後も続く? ブレダは日本流の生産スタイルを持ち込んで復活したが、逆に日本がブレダから学んだこともあった。ドーマー氏が例として挙げたのは電気や通信システムなどの配線を車両に取り付ける作業だ。ケーブルが多数あるため、ミスなく効率的につなぐのが難しいことが多いだけに日本では熟練工の技に頼る。だが、ブレダでは事前に配線をモジュール化して、それを車両に取り付けていた。「非常に賢いやり方」とドーマー氏は賞賛する。
また、2025年頃の開業を目指す台湾の三鶯(さんいん)線建設プロジェクトでは車両設計をイタリアが行い、日本で製造し、台湾に持ち込むというスタイルを取った。新たな国際分業の形である。 2021年にはタレスから交通システム事業を買収すると発表した。タレスの鉄道信号システムは世界的にも評価が高く、「長年にわたって買収したいと考えていた」。また、「日立は日本、英国、イタリアに強みを持ち、アメリカでも事業を拡大しているが、タレスはカナダ、ラテンアメリカ、サウスアメリカ、フランス、ドイツ、東欧、シンガポールに強い。両者は強力な補完関係にある」とも話す。
では、今後も大型M&Aを重ねて成長を続けるのだろうか。タレスの交通システム事業買収に際しては、EUや英国の規制当局が日立の規模が大きくなりすぎることを懸念して一部事業を売却することを求めた。そう考えると今までのような大型のM&Aは困難かもしれない。ドーマー氏も「中小規模企業の買収を検討している」と話す。 分野的に強化したいのはデジタル関連。日立はIoTプラットフォーム「ルマーダ」を核としたデジタル戦略を進めている。IoT技術を駆使して車両や線路の状態を常時監視することで異常を事前に察知できれば、保守費用が安価になると同時に、運行の安全性も高まる。「たとえば1両に片側2つドアがある車両なら10両編成でドアの数は40。今までは40のドアを毎月点検していたが、ドアにセンサーを付けてデータを蓄積すると、どのドアが動作不良を起こすか事前に察知することができる」。