給与とメンタルをむしばむ「多重下請け構造」 なぜ法規制しきれないのか?
「多重下請け構造が日本を貧しくしている」という声があります。多重下請け構造とは、発注企業から元受け企業に委託された業務が、2次請け、3次請け、4次請け企業のように何層にもわたって再委託されている構造を指します。 【画像】システムエンジニアの給料 複数の中間業者が入ることで、実際の作業者の賃金が低くなってしまうのが多重下請け構造の問題点です。 本記事では、多重下請け構造の問題点、それを規制する法律について解説します。
花形職種のITエンジニアも多重下請けの被害に
多重下請け構造と言えば、建設、運輸、広告業界を連想する人が多いかもしれませんが、近年はIT業界でも多いです。中でも特に賃金格差が大きく出ているのが、システムエンジニアです。 システムエンジニアは世界的にも人気の稼げる職種です。厚生労働省が運営している職業情報提供サイトによると、システムエンジニアの平均年収は550万円となっており、他の職種より高いです。 しかし、Web上の求人を見ると、400万円台の求人も目につきます。550万円という数字は一部の大手元請け企業の社員が押し上げている可能性があります。
メンタル不調の要因にも
給与が抑えられる他にも、多重下請け構造には問題点があります。それは末端の会社で働く人ほど長時間労働になり、心身ともに疲弊することです。 システム開発におけるエンジニアの業務は仕様書(設計図)を基に開発を進めることです。しかし、間に入る会社が多くなれば、意思決定の遅れや伝言ゲームによる抜け漏れが発生する可能性が高まります。結果、仕様書の完成が遅れたり、現場で発生した問題が発注者に届くのが遅れたりして、スケジュールが後ろ倒しになっていきます。システム開発の過酷な労働環境を例えた、デスマーチや炎上プロジェクトという言葉もあるほどです。 その実態は厚生労働省の調査によっても明らかになっています。各業界のメンタル不調による休業や退職状況を調べた「令和3年 労働安全衛生調査」において、システムエンジニアが属する情報通信業は、全体の11.7%で全17業界中最下位でした。 システムエンジニアの仕事は、人によって向き不向きが明確だという背景もあるかと思いますが、多重下請け構造による労働環境の悪さもメンタル不調者をでてくる要因の一つだと推定されます。 「精神的な負荷が大きそうなわりに、給与は際立って高いわけではない」となれば、システムエンジニアを志望する人は減ってしまうかもしれません。経済産業省は、2030年には最大45万人のIT人材が不足するという試算を発表しています。システムエンジニアが全てではありませんが、付加価値の高いIT産業が発展しなければ、国際競争力の低下も避けられません。