「スピード」と「完成度」、どちらを部下に優先させるべきか
次に(2)の「悩みを深めてしまう」である。 完成度を優先しようとすると、悩みを深めてしまうことが多い。理由は、考えるための「切り口」を知らないからである。考えるための手がかり、切り口がなければ考えようがない。 「切り口」とは、考えるためのスイッチのようなものだ。 スイッチを押さないと機械が作動しないように、「切り口」が見つからなければ頭の中の「考える機械」が動かない。 そのため知らず知らずのうちに、「考える」が「悩む」に変容してしまうのである。 考えるための「切り口」を得るには、知識と経験が不可欠だ。特に「失敗経験」を通じて体得することが多い。だから何事も試行錯誤(トライ&エラー)が必要なのだ。 精度の低い仮説であっても、その仮説に基づいてスピーディに実践(トライ)し、間違い(エラー)を通じて、 「ああ、そうか。そういうことか」 と学ぶのである。「成功があるか、失敗があるか」ではなく、「成功があるか、学びがあるか」で考えるのが正解だ。 最後が(3)の「途中で諦めてしまう」である。 完成度を優先して悩みが深まると、時間への焦りが募ることだろう。完成度を高めるどころではなくなる。そして依頼者である上司に相談することになるのだ。 「いろいろ考えたのですが、どうしたらいいかわからなくって困っています。期限が迫っていますし、どうしましょう?」 と泣きつく。当然、期限ギリギリでこんな相談をされたら、 「どうして、もっと早く相談してこないんだ!」 と怒りを覚えるのは無理もない。しかし、部下が相談できなかったのは当然だ。手を動かしていないものだから、相談する「切り口」がわからないからだ。 最悪なのは、上司が仕事を巻き取ることだろう。 「もういい、こっちでやるから」 上司がこう言って、仕事を奪ったらいつまで経っても部下は成長できない。お互いの関係も崩すことになり、いいことは何一つない。
横山 信弘