「スピード」と「完成度」、どちらを部下に優先させるべきか
「ホワイト過ぎる職場に、成長の機会を奪われると感じて辞めてしまう」――若者の退職を招く新たな問題に、「厳しくしても優しくしてもダメなら、いったいどうすればいいんだ!」と頭を抱える担当者は多い。本連載は、今どきの若者とどう関わるのが正解か、20年近く企業の組織改革に携わってきた経営コンサルタントが、11の具体的シーンで解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません――マネジャーの心の負担を減らす11のルール』(横山信弘著/東洋経済新報社)から内容の一部を抜粋、編集。 ヘルマン・エビングハウスの忘却曲線から学べる「効果的な記憶法」 第3回目は、部下に仕事を与える際、スピードと完成度のどちらを優先させるべきかという上司の悩みを例示。ドイツの心理学者が発見した記憶に関する指数を基に効果的な対応を紹介する。 ■ スピードと完成度ならどっち? 「スピードと完成度、どちらを優先したらいいのか?」 ある課長から、こんな質問を受けた。 望ましいのは、部下が自分の力で期限までに仕事をやり抜くことだ。 しかし、その課長の部下は、スピードを優先させると仕事の質が悪くなり、完成度に重きを置かせたら考え込んでしまうそうだ。 だからスピードと完成度、どちらを部下に優先させたらいいのか、わからないと言う。 実際に、このような悩みを抱えているマネジャーはとても多い。マネジャー自身が「スピード派」ならスピードや量を重視する。「完成度派」のマネジャーなら、完成度や質に気を遣う。 どちらも正解と言いたい。しかし、まだ経験が浅い若手には「スピード」を優先させるべきだ。量と質と悩んだ場合でも同じだ。量を選ぶのである。 では、なぜ完成度に重きを置くのがダメなのか。量よりも質を選んではいけないのか。その理由は次の3つである。 (1)大事なことを忘れてしまう (2)悩みを深めてしまう (3)途中で諦めてしまう ■ 「スピード」を優先すべき3つの理由 完成度を優先させてはいけない最初の理由は、(1)の「大事なことを忘れてしまう」だ。意外と思われるかもしれない。だが、これが最もダメな理由である。 「ヘルマン・エビングハウスの忘却曲線」をご存じだろうか。 この曲線は、いったん覚えた情報でも指数関数的に忘れていくことを表している。忘却曲線は24時間後にようやくなだらかになるが、「最初の20分」「最初の1時間」で急激に記憶から失われていくそうだ。 仕事を依頼したら、20分後。無理でも、せめて1時間後にはいったん着手してもらったほうがいい。 まさに「鉄は熱いうちに打て」である。 もしそれができなかったら、依頼した内容を書き留めさせておくだけでもいいが、手を動かしてもらうほうが、記憶の定着度合いは高い。 「期限まで1週間ある」 という場合でも、5分でもいいので着手してもらうべきだ。そうすることで、どれぐらいの時間がかかりそうか、部下自身も見当をつけることができ、期限直前に慌てて取りかかるということも防げるだろう。 つまり完成度を重視しようと思ったとしても、すぐに手を動かしてもらうことが重要だ、ということだ。