内田也哉子、異例の夫婦対談の裏に本木雅弘の“ぐうの音も出ない一言”9時間超の話し合いは「日常茶飯事」
“一番の読者” 夫・本木雅弘の「ぐうの音も出ないひとこと」
さて、連載の5年間、也哉子さんにとって常に一番の読者だったのが夫の本木雅弘さんだったという。 井﨑「(単行本刊行の際)本木さんに一言いただけませんか、とお願いしたら、『内田也哉子という人が、有名な芸能人の両親や妻という肩書きから脱しよう、人生後半頑張ろうともがいて毎回書いてきたのに、最後に自分が出たらダメじゃないですか』とおっしゃって、ぐうの音も出ず……」 やだモッくんカッコいい! しかし井﨑さんは「一言」とはまた違う角度で「夫婦対談」をお願いするというウルトラCを思いついた。それが2023年12月22日発売の「週刊文春WOMAN」創刊5周年記念号(Vol.20)「特集:母と娘って」の夫婦対談「内田也哉子が聞く、本木雅弘『婿の言い分』」である。 井﨑「(本木さんは)いろいろあったけど仲のいい夫婦です、みたいな企画はつまらないから絶対やりたくない、とおっしゃって」 内田「そう、ヒリヒリした部分も晒したいって」 21ページにわたる特集は、本当に「これ言っても大丈夫?」と驚くほど、ぶっちゃけた内容となった。
9時間かかったけど「このレベルの話し合いは日常茶飯事」
この夫婦対談は撮影を含め6時間、打ち合わせ時間も合わせると9時間かかったという。しかし、也哉子さんご夫婦にとって、このレベルの話し合いは日常茶飯事。問題があると、十何時間も話し続けるそうだ。もはや戦い! 也哉子さんは笑いながら言う。 「戦うというより精査してるんですね。思いが微妙に違うなら、その微妙さの加減を知りたい。しつこいの(笑)。お互いしつこさが似てるから離婚危機も何度もあったけれども、ここまできたら諦めずに……とかいいつつ、明日もし離婚してたらごめんなさい」 客席から思わず笑いが起こる。 「やっぱり他人だから、いつ別れてもおかしくない。その危険をいつも目前に置いておけば、この日常が尊くなるっていうか。突き詰めると、違う扉から入ってくるだけで、出会える部屋はもしかして一緒なのかな……と」 ご両親の内田裕也さんと樹木希林さん夫婦は、結局、別れずに50年。 「母の方がしがみついている風に世間には見えていたかもしれないけど、父もいざ別れましょうとなると離婚届を持ってこなかったり、結局両方とも別れたくないんじゃないかっていう。それがすごく不思議でしたね。別れなかった2人にしか見えなかった景色があったと思います」 と振り返る。 「母は『あなた自身が変わらなければ、たとえ離婚して相手を変えようが、結局何も変わらないんだよ』と。これが真髄か、と噛みしめて、放棄したくなったら、もうちょっと頑張ろう、と。両親がそうであったように、続けた先にしか見えない、わずか一瞬の“きらめき”があるかもしれない。今はそれを希望に、一生懸命駆り立てています」 也哉子さんが体験した激しい家族とのサバイブと別れ、それを埋める旅のエピソードは客席に不思議な一体感を生んでいた。 自身の家庭と重ねる方、心の在り方を模索している方、質問コーナーでも熱い想いがいくつも飛び出す。客観的に物事を見るにはどうすれば。家族の存在とは――。もはや質問コーナーというより、1つの穏やかな対話の場。「深い! 答えられるかしら。頑張ります」と、一つ一つゆっくり言葉を探し答える也哉子さん。 時間制限が無かったら、彼女はずっと質問に答え続けていた気がする。 「友達や家族、そして思いもかけない人から、自分を気づかされますね。人との出会いで別の角度が見える」 そう答えいていた彼女にとって、きっと、対談の15人と同じくらい、この1時間のトークイベントも空欄を埋める大切な出会いなのだ。 終了後、会場に残るスタッフに「一筋のきらめき、という言葉に救われました」と感想をくれた方がいた。それをあとから聞いた也哉子さんはこう言った。 「救われたのは私のほうなのに」 彼女の空っぽを満たす旅は、まだまだ続きそうだ。
田中 稲