「白いモン食って、たくさん母乳出せ…」嫁の心身をズタボロに…昔の言い伝えを盲信する老婆心の末路
若い世代や流行りの現象に名前をつけて、あれこれ言いたがる風潮は今も昔も変わらない。近頃さかんに「Z世代」などと言われているが、現在中高年枠に収まっている人々が「新人類」と呼ばれた時代もかつてはあった。そしていつの世も、世代間には時として相互の理解を阻む壁が立ち塞がる。 危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、世代間で「常識」が違うことは致し方ない部分があるとした上でこう語る。 「時代がどんなに変わっても、自分の意見をはっきり言えることができる人とそうでない人がいます。先輩世代から『これはこういうものだ』と決めつけられた時、おかしいと思っても反発できない若者がいるということを肝に銘じて、自分たちの時代の常識を疑う柔軟さを持ち、時には調べて頭の中や感覚をアップデートすることが大切なのではないでしょうか。さもなくば、化石化した無用な知識を披露してくる有害な人物と思われてしまいかねませんよ」 ・・・・・・・・・・・・・・・ 世代間での常識の違いを感じた経験のある方を探していくなかで、出産後の食事や母乳育児について姑から昔の考えを押し付けられて困ったことがある、という女性に取材をすることができた。 「産前産後は同居している姑に何かと助けてもらったのですが、その時戸惑ったのは出産や育児についての常識というか、認識の違いでした。こういう話題はたまに耳にしますけど、想像以上でした」 こう話すのは1歳になったばかりの子を持つ坪内里穂さん(仮名)。夫の両親とは二世帯住宅で同居している。 「お世話をかけている後ろめたさもあって、姑の思い込みに対してほとんどノーと言えませんでした。でもそれが乳腺炎の原因のひとつになったのだと思います」 今でこそ姑に対してできるだけ自分の意見を言うようにしているという里穂さんだが、当時は正直な気持ちを伝えることができなかった。そのため、姑が昔の「言い伝え」を頑なに信じていることに疑問を感じても、そのままにしてしまっていたという。 「妊娠中はつわりが終わると『赤ちゃんの分も2人分しっかり食べなきゃ』と言ってたくさんご飯を作ってくださいました。ありがたかったけど、今は太り過ぎないことの方が大事なんですと言い出せなくて、よく残していましたね。まだこの辺りは序の口ですが」 「食事をたっぷり食べなくては」「妊婦がそんなに動いてはいけない」など、つわりが収まってからもあれこれ心配してくれた姑。しかし、体調さえ良ければ適度にウォーキングなどした方が安産になりやすいと助産師に勧められていた里穂さんは、日頃からこまめに動き、週末になると近所を歩き回った。 「寒空の下、妊婦に1時間も散歩することを勧めるなんて、そんな人にお産頼んで大丈夫なの? と義母は先生を疑いました。スマホで簡単に物を調べられる時代なんですから、疑問が湧いたら調べてみたらいいと思うのですが、自分のイメージや昔の考えにいつまでもとらわれているんですね」 出産準備では、布オムツを縫うようアドバイスされて困ったことも。 「かぶれやすい子かもしれないから布オムツを縫って用意しておくべきだと言い出しました。布オムツの長所はナチュラル系のサイトなどで読んで知っていましたが、私は裁縫が苦手なこともあり、今の紙オムツは肌に優しいので大丈夫だと思いますよ、と言ってみたのですが……」 何よりも手作りして手間ひまや愛情をかけることに意義がある、と姑は言い放った。この姑さんは、現在御年65歳だという。 「今の60代って感覚が凄く若い方もいる印象ですが、やっぱり頭の中が古い人もいるんですよね。でも恥かかせちゃいけないとか、失礼かなとか思ってしまって、実際の会話の中ではなかなか反論できませんでした」 姑の古い考えに対しても、お世話になっている後ろめたさから、愛想笑いを浮かべてやり過ごしていた里穂さん。義母へのパフォーマンスとして布オムツを作ってしまったが、結局使わずじまいだったらしい。 「出産後の姑は母乳への強いこだわりを見せました。よく言われたのが、母乳で育てないと赤ちゃんがかわいそうだというセリフです。確かに免疫機能的には母乳はすぐれているようですが、もし出なかったら何言われるかわからないと思うと不安で、言われるたび固まってしまっていました」 母乳で育てることに強いこだわりを見せる姑。あれこれと世話を焼いてくれるものの、その間違った常識で、事態は悪い方向に行ってしまったという。後編に続く。 取材・文 中小林亜紀