高齢者どうしで始まる「どんなに不幸か」の自慢合戦。「大変だ」と言いながら楽しそうなのはなぜ?「今日もいい日」にするための秘訣とは
人生100年時代、現役世代を駆け抜けた後はどのように過ごせばいいのでしょうか。精神科医の保坂隆先生いわく、人生後期は無理をせず「ほどほど」をキーワードに過ごすことが大切とのこと。『精神科医が教える 人生を楽しむ ほどほど老後術』より、日常生活を元気で楽しく暮らすための知識をご紹介します。 * * * * * * * ◆不幸の自慢合戦? 幸せほど見えにくいものはないと思います。「人は自分が幸福であることを知らないから、不幸なのである」とドストエフスキーは書いています。 病院で、「病気自慢」のような会話を耳にすることがあります。入院して同室になった1人が、「自分は5時間もかかる手術を受けた」と話すと、もう1人が「私なんか6時間もかかった」と言う。 さらに他の人が「それどころか、私は12時間ですよ。ほとんど死にかけた」などと、自分のほうがはるかに重く、大変だったと、競うように話すのです。 こうした点では、高齢者にも似たような面があります。「朝早く目が覚めるようになって、今朝は5時起きです」と1人が話すと、別の人が「私なんか、毎朝3時に目が覚めて、もう眠れないんですよ」と言う。 この話だけを聞いていると「どんなに不幸か」の自慢合戦のようですが、よく聞くと、「こんなに大変だけど元気に生きています。幸せですよ」という様子に気づきます。 「もっと大変だ」と話しながら、それなりに楽しそうなのです。
◆「老いには老いの恵み」がある 不幸なこと、うまくいかないことを認めると、それに負けていない状況に幸福を感じるのでしょう。 以前、作家の渡辺淳一さんが、ある本の中で、「最近は朝、おしっこが気持ちよくほとばしり出ただけで幸せになれる」と書いていましたが、こうしたことで幸福を味わえることこそ、年を重ねた人間の特権かもしれません。 年をとると幸せを感じるハードルがしだいに下がってくるということは、年を重ねるにつれて幸福になりやすくなるわけで、「老いには老いの恵み」といえるでしょう。 幸せというのは、正体があるようでないもの。自分で「幸せだ」と思えば、その瞬間に幸せになれるのです。
◆幸せな老後を過ごす秘訣 そこで、幸せな老後を過ごす秘訣を紹介しましょう。日記でも手帳でもいいので、その日の終わりに「ああ、今日もいい一日だった」と書いてみてください。すると、それだけで、その日は「いい一日」になりませんか。 ケンカをしても、ムカムカしたことがあっても、「いい一日だ」と書いてしまえばいいのです。 こんなふうにして、その日を「いい日」と思えれば、いつのまにか、それが「いい老後」に変わっていくように思えます。
保坂隆