真偽不明の「健康情報」がネットに溢れる今...本当に健康に役立つ「正しいエビデンス」の見分け方とは?
<科学的根拠に基づいて、何をどうやったら健康のために良い生活習慣が作れるかをまとめた『健康になる技術 大全』著者・林英恵さんインタビュー>
健康に関する本が毎年たくさん刊行されています。テレビや雑誌での特集、ネット記事などあらゆるところで健康に関する情報があふれていますが、正しいもの、必ずしも正しいとはいえないものも混在しています。自分の健康を維持するためには、正しい情報を見抜き、選ぶ力が必要です。 【動画】パブリックヘルスストラテジスト・公衆衛生学者の林英恵さんへのインタビューの様子を動画で見る 今回は『健康になる技術 大全』(ダイヤモンド社)の著者で、パブリックヘルスストラテジスト、公衆衛生学者の林英恵さんに、健康になるための「正しいエビデンス」を見抜くポイントを伺いました。聞き手は株式会社フライヤーの執行役員・井手琢人です。(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です) ■科学的根拠に基づいた現代版『養生訓』 井手琢人(以下、井手) 『健康になる技術 大全』の刊行おめでとうございます! 今回の本は10年ぶりだそうですね。 林英恵(以下、林) そうなのです。この本は、前回の本『それでもあきらめない』(あさ出版)を書き終えてから構想3年、執筆7年の計10年かかっている本です。 井手 まさに健康についてしっかり1冊にまとめた「大全」。これは書くのが大変だったと思いますが、編集も大変だったでしょうね。本にもいろいろありますが、こんなに手の込んだ本はなかなか無いのではないかなと思いました。 林 この本は現代版の『養生訓』を目指して書きました。 『養生訓』は貝原益軒先生の書かれた江戸時代の大ベストセラーですね。この本では、エビデンス(科学的根拠)に基づいて、何をどうやったら健康のために良い生活習慣が作れるかをまとめた本です。 井手 林さんの学んでこられた「パブリックヘルス」とは、我々の健康習慣を学ぶ学問なのですか? 林 パブリックヘルスは日本語だと「公衆衛生」と言われますが、そのまま「パブリックヘルス」と言った方が分かりやすいですね。 「パブリック=みんなの」「ヘルス=健康」ということで、みんなの健康をどう増進して維持するかということを常に研究し、追求していく学問です。 井手 学問上は大変難しいことを研究されていると思いますが、それを一般の我々にもわかりやすく嚙み砕いていくのが、林さんのお仕事なのですね。 林 はい。それを頑張ってまとめたのがこの本になります。 ■玉石混交の健康情報が溢れる現代 井手 先ほど「エビデンス」という言葉が出ましたが、このエビデンスの大事さは感じます。特に健康という話においては生きるか死ぬかに繋がるので、エビデンスがあることは必須ですよね。 この本は後半50ページにエビデンスとなる参考文献や論文がずらっと載っていて凄いなと思いました。 エビデンスの大事さは感じながら、一般の我々が論文を一つずつ読んでいくわけにはいきません。その中で、健康に関するエビデンスのない不確実な情報が我々の耳にも、ライトに入ってきているというのも事実です。 林 これはすごく難しいことですよね。一昔前であれば健康法のソースは限られていました。テレビ、新聞、本、雑誌ぐらいでしたよね。 ですが今はネットやSNSで誰でも発信できる時代になりました。情報が溢れる中で、何が正しくて何が正しくないのかがわからない。もっと言えば、専門家と呼ばれる人の中でも、必ずしも正しいとはいえない情報を発信している人も少なからずいます。 残念ながら、学校教育の中で、「エビデンスとは何なのか」ということについては教わらずに大人になっている人も多いと思います。 そこで、この本ではエビデンスとは何なのか、そして情報に対峙した時に少しでもいいものを選べる力をつけるためのテクニックを公開しています。 ■「正しいエビデンス」を見極めるポイント 井手 普段生きていく中で、正しい知識を得るためのポイントはありますか? 林 例えば、医者や栄養士など健康に関する専門家が話している内容は、すべてエビデンスになるでしょうか? たとえ専門家が話していたとしても、その内容がその人個人の経験に基づいているものであれば、エビデンスとしては一番弱いレベルです。 私が「睡眠時間は、私の経験からすると7時間ぐらいが良いと思います」と言ったとしても、私個人の経験に基づいていればエビデンスレベルは低く、逆に、信頼のおける研究やデータに基づいて話しているならば、それはエビデンスのレベルは高くなるのです。 このように、専門家の意見でも、何を基にそれを言っているのかを確認することが大事です。 井手 「誰が言っているか」だけが重要ではないということですね。その他にはありますか? 林 動物実験の結果はエビデンスとしてはいちばん低いものであるということです。 新聞広告に「〇〇成分が認知症に効果がある」と書いてあっても、注意書きをよく読むとマウスの実験結果だったということはよくあります。動物に効果があっても人間に効果があるとは限らないので、惑わされないように注意が必要です。