モディ・インド人民党大勝か、2024年総選挙で問われることになる「大国」インドの中身
モディ率いるBJPの3連勝が確実視
インド連邦下院総選挙が進行中だ。昨年総人口が中国を抜いて世界1位になっただけに、有権者数も9億6800万人とケタ違いに多い。まさに「世界最大の民主主義」である。 【写真】「日本経済がインド経済に勝つのは、正直厳しい」 投票は4月19日から7回に分けて行われ、6月4日に一斉開票される。規模が規模だけに開票に時間がかかりそうなものだが、紙の投票用紙ではなくEVMという電子投票機が全国で導入されており、開票日の日中には大勢が判明する。 しかし、今回は選挙前から「大勢が判明」しているかのような報道がインドでは目立っている。インド人民党(BJP)主導の与党連合・国民民主同盟(NDA)が大勝する見込みで、ナレンドラ・モディ首相の3期目入りは確実、というのだ。総議席543のうち、BJP単独でも過半数を大きく上回るとも見られている。 すでに「モディ3.0」を前提に話が進み、中には将来の「ポスト・モディ」をめぐる話題すら出ているほどだ。 筆者もこうした予測はおおむね現実的だと見ている。ではインド総選挙の見通しを論じる意味はもはやないかと言えば、そうではない。「モディ3選」は既定路線としても、今後のインドの行く末を見きわめる上で重要な要素がいくつも含まれているからだ。
「偉大なるヒンドゥーの再生」
1990年代以来、インド社会で大きな論争を呼んだ「2つのM」があった。「Mandir(マンディール)」と「Mandal(マンダル)」である。 「マンディール」は「寺院」を意味し、ここでは「ラーマ寺院」のことを指す。インド最大州のウッタル・プラデーシュ州アヨーディヤには16世紀に建てられたイスラム教のモスクがあったが、元々ここはヒンドゥー教のヴィシュヌ神の化身ラーマの生誕地であり、そのための寺院を建設すべしとの主張がヒンドゥー教徒過激派によって1980年代から展開されるようになった。 1992年12月6日にはモスクの前で「世界ヒンドゥー協会(VHP)」やBJPらの支持者による大規模集会が開かれ、一部の過激派がモスクを破壊する事態に発展した。この事件はインド社会に大きな衝撃をもたらし、各地で宗教暴動が発生した。代表的な英字週刊誌『インディア・トゥデイ』は「国の恥」という見出しで事件の特集を組んだほどだった。 BJPはその後も「ラーマ寺院」を建設すべしとの主張を続けてきたが、初めて中央で政権を担った1996年、1998~2004年は目立った動きはなかった。まだ事件の記憶が生々しく残っていったことに加え、ヒンドゥー至上主義政党としての性格を前面に出さないことで国民を安心させようとしたこともあった。 潮目が変わるのは2019年である。BJPはこの5年前の総選挙で勝利して政権奪取に成功していた。第1次モディ政権は経済で物品サービス税(GST)と呼ばれる付加価値税の導入や高額紙幣の廃止といった大胆な取り組みを実行したが、宗教関連では比較的「安全運転」に徹していたように見えた。 しかし2019年の総選挙で前回を上回る議席を獲得すると、第2次モディ政権はヒンドゥー至上主義色が目立つようになる。「ラーマ寺院」をめぐっては、2019年11月に最高裁が寺院建設に道を拓く判決を下していたことで、法的な問題はクリアされていた。その後、新型コロナウイルスのパンデミックによって建設が中断した時期はあったものの、工事が進められていった。そして2024年1月22日、ラーマ神像を寺院に安置する儀式が盛大に行われた。モディ首相も出席して中心的な役割を担っていた。 野党からは、世俗主義に反するという点や総選挙を控える中での宗教の政治利用ではないかと批判が起こった。だが、その数週間前からインドメディアはこの儀式を国家の一大イベントとして大々的に取り上げていた。前出の『インディア・トゥデイ』の見出しは32年前とはうってかわって、こうだった――「偉大なるヒンドゥーの再生」。