【視点】不安視される「石破外交」
石破茂首相は南米ペルーでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)、ブラジルでの20カ国・地域(G20)リオジャネイロ・サミットに出席し、国際舞台にデビューした。特に注目されたのは米、中、韓との首脳会談だ。 首相によると、バイデン米大統領とは日米同盟の発展、幅広い分野でのグローバルな連携強化などを確認した。尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領とは来年の国交正常化60周年に関し、日韓関係を飛躍させる年にすることで一致した。 退任間近のバイデン氏や、就任以来日韓関係の改善に意欲的な尹氏との会談に特に懸案はなく、顔合わせ程度と見られていた。関心が集まったのは中国の習近平国家主席との会談だ。 日中関係には中国軍の領空侵犯、尖閣諸島周辺や台湾海峡での中国側の威圧的活動、深圳(しんせん)での日本人児童殺傷などの課題が山積している。 だが会談では、両首脳は互いの主張を述べ合うにとどめ、その上で戦略的互恵関係の包括的な推進を確認した。石破首相と習主席の関係は、まずは無難な滑り出しと言えるのかも知れない。 皮肉なことに、初の国際舞台で首相が面会した首脳たちとの会談内容より、面会できなかった人物への対応に国内の関心は集まっている。首相は帰国途中に米国に立ち寄り、トランプ次期大統領と面会したいと打診したが、実現しなかった。 トランプ氏側は、大統領就任前の他国首脳からの会談要請は一律に断っていると回答した。だが実際には、トランプ氏は当選後にアルゼンチンのミレイ大統領と会談している。 何より第1次トランプ政権発足直前、世界のどの首脳より早くトランプ氏と面会したのが当時の安倍晋三首相だった。トランプ氏と蜜月関係を築いた安倍氏と、安倍氏の政敵でもあった石破首相が比較されてしまうのは致し方ない。 トランプ氏の当選が決まった直後、首相が電話をかけたが、会談時間は約5分だったと報じられた。 トランプ氏は電話でマクロン仏大統領とは約25分、尹大統領とは約12分話している。石破首相との会談時間の短さは「トランプ氏から相手にされていないのでは」と日本国内で波紋を広げた。 初のAPECやG20を乗り切った首相だが、現時点でトランプ氏との会談のめどが立っていないこともあり、国内では依然「石破外交」を不安視する声が強い。 APECでは、首相が座ったまま他国首脳と握手したことに、国内からマナー批判との声が上がった。遅刻のため首脳の記念撮影に加われなかったとも報じられた。 現状では、こうした些細な問題も不信感を増幅させる。日本外交というと、国民には国際舞台で安定感があった安倍氏や岸田文雄前首相のイメージが強い。その意味で首相が損をしている感も否めない。 首脳会議では石破首相の動向より、トランプ政権発足後をにらむ習主席の活発な外交展開が話題になった。良くも悪くも現在の国際社会では米中ロが主役であり、日本は脇役だ。 ひところに比べ国力がワンサイズ縮んだ日本は、国際社会でいかに存在感を発揮し、国益を確保すべきか。首相には重い使命が課せられている。