EURO圧勝スタートのドイツ、低迷期からなぜ脱出できた? 主将ギュンドアンが支える歯車の機能【コラム】
ギュンドアンは失点を反省「僕らへの警告」
クロース復帰後にポジションを1つ上げたギュンドアンは、ドイツメディアやファンに「ゴールにつながるプレーがない」「目立った好プレーがない」「ミスが多い」と批判的な見方をされ続けていた。数字やボールのあるところでのプレーだけを見ているとそういう印象がないわけではない。 それこそ、「クラブチームではオフェンシブなポジションをやっているんだからもっとできるだろう?」と思われるだろうし、スコットランド戦でドイツテレビの司会進行役もそうコメントしていた。 それに異を唱えたのが解説を務めたクリストフ・クラマーだ。14年W杯優勝メンバーでもあるクラマーは、「例えば、マンチェスター・シティ時代は左のインサイドハーフが彼の主戦場で、そこで素晴らしいプレーの数々を見せていた。そこで託されているタスクと今代表で担っているタスクとは全然違う」と鋭く言い切った。 今、代表におけるギュンドアンの役割は多岐にわたり、そして細かい作業の繰り返しだ。「フロリアン・ビルツとジャマル・ムシアラを躍動させるためにバランスを取るのが僕の仕事」と本人が口にしているが、ドイツが誇る両雄がその資質をチームに還元させるために、ギュンドアンは苦心。ここ数試合はそこへの気配りが強すぎて自身のプレーがさえない側面もあったが、スコットランド戦では魅惑のコンビと巧みなポジションチェンジで、何度もチャンスをクリエイトしていた。 クロースからのボールがギュンドアンに入ることで攻撃のギアが上がるシーンが多かったのが印象深い。ムシアラのゴールを生み出すパスを出し、ハフェルツが決めたPKを獲得。足首に受けた激しいタックルで怪我をしなくて、ナーゲルスマン監督もどれだけ胸をなで下したことだろう。 とはいえ、まだ1試合。ギュンドアンは「失点シーンは僕らへの警告だと思って受け止めている。どんな展開でもギアを緩めることなく、最後まで全力でプレーしなければならないんだ」とキャプテンとして力強く語り、気を引き締めている。 ピッチ上だけではない。開催国として、EUROには多くの可能性があることをギュンドアンは口にする。 「僕らはこのドイツ開催のEUROでいろんなことを勝ち獲れるチャンスがあるんだ。いいホストカントリーとして、世界にオープンな社会として、そしてピッチ上で。僕たちの夢がみんなで一緒に本当になるように、どうか力を貸してほしい」 思いが集うと大きな力となる。 [著者プロフィール] 中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。
中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano