日銀のマイナス金利政策解除がほぼ確実に:経済・生活への影響は大きくない
政府や国民が広く納得できるタイミングで本格的な正常化に着手
3月16日付の日本経済新聞は、「マイナス金利解除へ」との見出しを一面に掲げ、3月18日~19日に開かれる金融政策決定会合で、日本銀行がマイナス金利政策を解除する見通し、と報じた。これは政府側からの情報で裏付けられたものと推察され、このタイミングで日本銀行がマイナス金利政策の解除を決める可能性はほぼ確定的になった、と考えられる。 内閣府、財務省は、決定会合への政府代表の参加者を、通常の副大臣から大臣へと切り替えることも検討するだろう。それは、日本銀行の政策転換をけん制するためではなく、経済政策や経済環境の認識について、政府と日本銀行の間に食い違いがないことをアピールする狙いがある。そして、日本銀行の政策転換を可能にしたのは、企業への賃上げ要請や賃上げ促進税制も含めた政府の経済政策の成果の表れであることを、国民にアピールする狙いもあるのではないか。 連合が15日に発表した春闘の第1回集計で、主要企業の賃上げ率が+5.28%と32年ぶりの高水準となったことが、マイナス金利解除の判断の決定打になったとも言える。しかし実際には、賃上げ率が事前予想を大きく下回らない限り、このタイミングで政策変更を行うことは、事前に決めていたように思う。 日本銀行は、政府や国民が広く納得できるタイミングで、相応の副作用を持つ異例の金融緩和策の本格的な修正に着手したい、と考えてきたのだろう。
政府の「デフレ(完全)脱却宣言」はなお見通せない
高い賃上げ率は、輸入物価急騰によって大きく低下した労働分配率を元の水準へと戻していく「正常化のプロセス」を早める役割を果たすもの、と考えられる。しかしこれは、(名目)所得分配の変化に過ぎず、実質成長率を高め、それが実質賃金の上昇につながるようなパイの拡大に直結する訳ではない。 「賃金と物価の好循環」が広く期待されているが、仮に物価と名目賃金の相乗的な上昇が同幅で生じるとしても、それは実質賃金を上昇させるものではなく、生活水準は改善しないのである。消費者にとっても、今回の高い賃上げは歓迎するものの、それが今後も持続するかは明らかではなく、物価上昇の逆風はなお続くことになるだろう。そうしたもと、政府は、日本銀行の2%の物価目標達成の制限、マイナス金利政策解除と合わせて、「デフレ(完全)脱却宣言」を打ち出すことはなお難しいだろう。 持続的に実質賃金上昇率が高まり、生活水準の改善が促されるには、労働生産性上昇率が向上することが必要であり、賃金交渉でそれが生じることはない。