「中途で放り出すことはできない」…相反する「理想」と「経営」のはざまで奮闘する福祉系NPOマネジメントサイドの実態
NPOは儲けていけないわけではない
商売である。やってみたがどうにも採算が悪いというならば、その事業を引き上げることはビジネスの場では当然の判断として認められよう。 だが、郡司が身を置く福祉を扱うNPOではそうした理由で業務の撤退は許されない。一度、福祉のNPOという看板を掲げた以上、それは社会に対して、「ずっとこの分野でのサービスを提供していきます」という無言の契約をした立場といえばわかりやすいだろうか。 その社会との契約、これを果たすための裏打ちとなるものは、一般企業でいうところの資本金というか、潤沢な資金力にほかならない。ひと言で言えばカネがすべてだ。 それにしても福祉のNPOとは、はたしてどうやって収入を得ているのだろうか。大きな疑問を持ってみている読者の方もいるだろう。 一般的には事業収入だ。近頃、町でもよく見かけるようになった「障がい者小規模事業所」にみられる施設発のクッキーやパンといった食品や、アクセサリー各種といった商品の販売がそれに当たる。これに寄付金や募金、行政からの補助金や助成金といったものが加わる。 ここでひとつ周知徹底しておきたいことがある。よく世間ではNPOが「儲けてはいけない」という人がいる。これは大きな誤解だ。NPOでも事業で大きな収益をあげてよい。 ならば、NPOであれ任意団体であれ、福祉の世界でも、どんどん生産性を高め、収益をあげればよいと考える向きもあるだろう。 だが、それだと営利企業と変わらない。高齢者や児童、精神、身体といった障がいを持つ人のケアを第一義とする福祉とは何なのかということになる。
きれいごとが言えるうちは
目指す福祉とNPO経営という、この相反する狭間で福祉人としての視点を持ってその着地点を見い出し、どう動いていくか。その舵取りをするのが郡司のような福祉系NPOのマネジメントサイドの立場にある者の仕事だ。 かつてのNPO制度が出来る前の時代、福祉の世界でマネジメントサイドに立っていた人たちは、得てして組織に必要な「ヒト・カネ・モノ・情報」に弱かった。とりわけカネに関しては不得手な人が多かった。 しかしNPO元年以降、ほぼ新卒といってもいい20代で福祉界入りし、今、マネジメントサイドにいる郡司らの世代は、旧世代の福祉人たちが不得手としていた財務、会計、資金調達といった業務も積極的に行う人が多い。郡司もまた例外ではない。事実、郡司へのインタビュー中、ごく自然にこんな話題が出た。 「金融機関からの資金調達では……(以下、略)」 「クラファン(クラウドファンデング)を行う場合、そのリターンで……(同)」 今、福祉界のミドル、ベテランといった域に差し掛かった人たちは、財務、会計、労務といった組織の屋台骨を支えるバックオフィスともいえる業務、こちらも精通していなければ、本業ともいえる福祉のほうでも立ち行かないようだ。郡司は言う。 「(社会の福祉という)綺麗ごとが言えるうちは、ずっとこの仕事を続けていきます――」