「中途で放り出すことはできない」…相反する「理想」と「経営」のはざまで奮闘する福祉系NPOマネジメントサイドの実態
非営利だからこそのむずかしさ
営利を目的としない。だからこそ厳しいものがある。昔も今も、NPO(特定非営利活動法人)を運営するうえで必要なのは、時代と社会の変化を見据える目、バランス感覚、そして行動力といったところか。営利目的の事業以上に、よりシャープなビジネスセンスと高いモラルが求められよう。 【マンガ】「長者番付1位」になった「会社員」の「スゴすぎる投資術」の全容 いつの時代でも起業を志す人は後を絶たない。「失われた20年」「リーマンショック」「コロナ禍」といった経済危機に伴う雇用不安を経験、消極的な選択肢ながらも、そこからみずから起業、「雇われない働き方」という考え方が人々の間にも浸透したからかもしれない。 事実、昨年2023年に全国で新たに設立された法人は15万3405社(前年度比7.8%増)で、過去最多を更新している(東京商工リサーチ調べ 2024年5月24日付)。 もっともこれらは営利を目的とする法人の話だ。同じ起業でも営利を目的としない「非営利」の法人、「NPO(特定非営利活動法人)」を設立しようという人もいるようだ。 なぜ株式会社や、近年、その設立手続きの簡便さから注目されている合同会社といった営利目的の法人ではないのか。 単純素朴に、営利というには馴染まず、非営利のほうがしっくりとくる業だからだろう。たとえば、「まちづくり」「環境」「国際交流」、そして「福祉」といった業だ。 このうち、とくに福祉は、NPOという言葉を耳にすると真っ先に思い浮かぶ業態ではないだろうか。とりわけ福祉がカバーする「障がい者」「精神」「児童」「老人」といった分野は、どれも皆、わたしたちの暮らしに繋がる身近なものである。
NPOの歴史
もっとも今、福祉のみならずNPO法人の新規設立は、ブームといってもいい時期はとうに過ぎ、すでに沈静化しているというのが、この界隈でのもっぱらの声だ。 たしかに2020年、NPOの新規設立件数は1320社。ここ十数年来のなかでピークだった2012年の3860社に比べると、およそ3分の1にまで減っている。 その背景には、コロナ禍の影響、先でも触れた手続きが容易な合同会社への設立を目指す人が増えたこと。福祉、まちづくり、環境、国際交流といったそれぞれNPOとして座りの良い業態が立ち上がり、今後求められるのは数よりも質、これから成長期、あるいは成熟期を迎えようという時期に入ったというのがもっぱらの声だ。 そのNPOは1995年がNPO元年と呼ばれている。阪神・淡路大震災があった年だ。この被災の経験からわが国のNPO制度がスタート。1998年、NPOとして最初に認証を受けたのは28社だ。 以来、その数は増え続け2000年度には3800社。2010年度には4万2385社にまでのぼった。そして2015年度には5万社を超えた2024年度の今、4万9719社がNPOとして認証を受け活動している※(認証団体のみ。認定団体は1295社)。 そんなNPO制度と福祉の黎明期から今日の発展まで、およそ四半世紀に渡り両者の交差点で双方に携わってきたNPO「たんとの会」(東京都立川市)副理事長にして事務局長の郡司晴雄氏(51)に、今の福祉の世界における現在地について訊いた。 訊けば訊くほど、令和の時代に求められる福祉、NPOといった世界におけるマネジメント上の問題点が浮かび上がってくる。安易な気持ちではできない仕事だ。