デザインでつなぐ「おもしろいほうの未来へ。」──KDDIブランドマネジメント部キーマンインタビュー
弊誌テクノエッジで、KDDIとサイト全体をジャックするコラボレーションPR企画を行いました。具体的には、新型iPhone(16シリーズ)の予約開始に合わせて2024年9月から一定期間、サイト全体のナビゲーション部分をオレンジ色のアメーバのようなデザインに変更していました(お気づきの方もいらっしゃったかと思います)。 【この記事の他の写真を見る】 このアメーバのようなデザインの名称は「キュリオスアメーバ」。KDDIが策定したブランドデザイン『au VISUAL IDENTITY(au V.I.)』のひとつだということです。 このグラフィックデザインに関心を抱いた筆者(弊誌営業担当)が、KDDI関係者に「キュリオスアメーバ」策定までの制作裏話を伺いました。 話を伺ったのはKDDI株式会社 渉外・コミュニケーション統括本部 ブランド・コミュニケーション本部 ブランドマネジメント部長 坂本 伸一氏(以下:坂本)、ブランドマネジメント部 つなぐデザイン室 制作1G グループリーダー 土井 章嗣氏(以下:土井)、ブランドマネジメント部 つなぐデザイン室 制作1G コアスタッフ 埋金 巧氏(以下:埋金)の御三方。 同時にブランドデザインやガイドライン制作について大切にしている点や気をつけるべきポイントを教えていただきました。 ──みなさまのご経歴、現在の担当領域について教えてください 坂本KDDIの前身のIDO(日本移動通信株式会社)に入社し、システム運用部という部署に配属されました。交換機のトラフィック管理や監視センターでの作業をしていました。KDDIに入社してからはもう30年近く仕事をしているのですが、2003年頃にマーケティング部門が発足され、より拡大を目指していくということで社内キャリアチェンジをしました。「LISMO(リスモ/au LISTEN MOBILE SERVICE)」の立ち上げや2011年にはマーケティング部のグループリーダーとして「三太郎」のコミュニケーションフレームの基礎の企画部分の立ち上げをしたりもしていました。現在のブランドマネジメント部では、KDDIを「ブランディングにこだわる会社」にしていきたいという思いで仕事をしています。 土井ブランドマネジメント部 つなぐデザイン室 制作1Gの土井です。私は2011年にKDDIに新卒で入社いたしました。最初は四国支社に配属され、auショップの代理店営業を7年間勤めておりました。その後、東京に異動をして、法人営業を担当していました。そこでは、モバイルの販売はもちろん、DXの提案営業も行っていました。昨年の2023年の4月からブランドマネジメント部に異動をして制作1Gで業務をしています。 埋金ブランドマネジメント部のつなぐデザイン室制作1グループの埋金です。私は2022年の10月にキャリア採用という形でKDDIに入社しました。以前は出版社や広告制作会社で働いていて、ライフスタイル誌やファッション誌、マス広告の制作業務を行っていました。今は auブランドやKDDIブランディングのアートディレクターという形で業務をしています。 ──「つなぐデザイン室」の役割はどういった役割なのでしょうか 坂本KDDI初のインハウス型ブランドクリエイティブ組織です。お客様向けブランドクリエイティブの指針を定義しつつ、自らクリエイティブ制作を行っています。「社員とお客様のつながりをデザインする」という意味合いで「つなぐデザイン室」と名付けました。クリエイティブ制作に加えて、ホームページやSNSなどオウンドメディアの運用業務なども行っています。 ──「au VISUAL IDENTITY(au V.I.)」について、策定の意図も含め改めて教えてください 坂本 auのブランドメッセージである「おもしろいほうの未来へ。」をお客様とブランドの一瞬一瞬の接触の中で感じていただきたいと考え、「au V.I.」を策定することにしました。この「au V.I.」はプロモーションツールだけではなく、各プロダクトや各アプリのUI/UXにも反映していくものです。 ──auが「デザインへのこだわり」を持っている理由を教えてください 坂本auは携帯電話業界でスタートしてから、お客様の気持ちに寄り添い、気分を上げられるようにするにはどうしたら良いかをずっと考えて来たように思います。例えば、「au Design project」ではデザインケータイというジャンルを築きあげました。また、「LISMO」でもユーザーインタフェースデザインにリスのキャラクターを入れて楽しくサービスを使ってもらえるようにしてきました。 ──「キュリオスアメーバ」のデザイン案はどれくらいの候補の中からいまのデザインが採用されたのでしょうか 埋金デザイン案は最初に膨大に作るのでどれくらい…というのは数えきれないぐらい検証をしました。結果として最終的に検討に上がったのは3案で、それぞれに名前を付けました。1つが「キュリオアメーバ」。もう1つがグラデーションを用いたような案で、ワクワクを表現した「イマジネーションパレット」。あとは二本線を使って「つながり」や「寄り添う姿勢」を表現した「ディオライン」。それぞれ表現手法自体は違ったのですが、一貫していたのは「おもしろいほうの未来へ。」というメッセージをより適切に表現できるデザインかどうかという点です。内部でいろいろと議論しながら、選んで磨き上げた結果、今の「キュリオスアメーバ」ができた経緯とその背景になります。あとは付加的な要素としては「展開のしやすさ」があります。媒体によっては「ちょっとこれは使えないよね」みたいな状況になってはいけないというのがあるので、応用・汎用性のある「キュリオスアメーバ」が選ばれました。 ──「キュリオスアメーバ」が完成するまでに大変だったこと、苦労したことあれば教えてください 土井今回の「au V.I.」の検討はブランドマネジメント部が素案を考えたのですが、それをそのまま社内で展開するだけでは社員全員の納得を得られないと感じたんです。なので、実際に事業を推進している各部門の方々、例えば営業部門や販促担当、マーケティング部門といった多岐にわたる部署の皆さんと一緒にプロジェクトを進めていきました。 具体的には、多くの人数を集めてワークショップを何度も実施しました。時には特定のテーマに深く掘り下げて議論を進めるために、一部の部署だけに参加してもらい、より詳細なディスカッションを行うこともありました。こうしたさまざまな形での議論を重ねていく中で「ここは重要だよね」「この部分はとても良いね」といった具体的な意見が集まり、少しずつ形になっていきました。最終的には、プロジェクトに関わる全員が納得し「これが我々の目指すべき方向だ」というコンセンサスを得られたと感じています。 ──「キュリオスアメーバ」のどういった点に注目してほしいでしょうか 埋金「キュリオスアメーバ」という名前に決まる前は「グラフィックデバイス」と呼んでいました。デバイスという名前の通り、多くの人、特にKDDIの社員が機能的に使えるようにという点を意識していました。そのため、組み合わせや角度、長さを自在に調節できる構造にしていて、状況に応じて形を変えることができるんです。これが、アメーバのように変化するという特徴を持つ理由でもあります。デザインに興味がある方には、この変化のおもしろさに注目して頂きたいです。 ──「au VISUAL IDENTITY(au V.I.)」の「デザイン原則」と「トーンオブボイス」について、完成までの経緯を教えてください 坂本基本的に「SIMPLE」を中心に、他に「CLEAN」、「ADVANCED」、「PLAYFUL」、「FRIENDLY」という4つの要素を設定しています。これらすべてを一度に取り入れるというわけではなく、クリエイティブやサービスに応じて、特定の要素を強調して使うことを提案しています。 例えば、auブランドでは通信だけでなく、金融やエネルギーといった様々なサービス領域で展開しているため、場面に応じて伝えるべきメッセージが異なります。そのため、柔軟性を持ったデザイン原則が必要でした。「SIMPLE」は早い段階で決定しましたが、その他の要素については議論を重ねました。「CLEAN」や「ADVANCED」といった言葉には様々な表現方法があり、例えば「ADVANCED」をどう具体的に表現するか、どんな未来的なイメージをauとして伝えたいのかを掘り下げました。また、「PLAYFUL」と「POP」は似ているようで少し違いがあり、それらもauブランドのイメージに合わせて慎重に選定しています。 「デザイン原則」だけでなく「トーンオブボイス」も「au V.I.」の一部と捉え、auブランドの指針に基づいて設計しています。社内外の視点を取り入れ、性別に偏らない、フラットで親しみやすい人格像を目指しました。 ──ガイドラインとは別な「au V.I.」のような指針を作成するにあたり、気をつけるポイントや大切にしていることがあれば教えてください 坂本これまでのブランド管理は、守るべきルールをガイドラインという形に落とし込み、その範疇で様々なクリエイティブを制作するというものでした。しかし、これからはパートナー様との協業も含めて、事業が様々な領域に拡大していくことから、一つのルールで管理するには限界が来ていました。そこで、お客様からauブランドはどのように見られるべきかをイメージレベルでの指針として定義することにしました。新たなクリエイティブを制作する場合には、それが大きな方向性に合っているかどうかを関係者で議論して、決めていくプロセスを大切にすることにしました。「つなぐデザイン室」のメンバーには、サービスや事業を企画する部隊との伴走役になろうという話をしています。 ──ブランド形成やデザインを作成する際に注意しているポイントや大切にしていることがあれば教えてください 坂本通信が生活のあらゆるシーンに溶け込み、可視化できない商品が増え、商品やサービスのDX化で差別化が困難となる時代において当社事業のブランド形成を行うには、商品やサービスのお客様メリットとともに、そこに込めた社員の思いも感じていただく必要があると考えています。社員の思いをどれだけデザインしていけるかが大切になると思います。 土井「au V.I.」の展開についても、単に守ってくださいというのではなく、社員の皆さんとコミュニケーションを取りながら、一緒にauブランドを作っていくことが重要です。それは「au V.I.」をどう表現するのか、どうあるべきなのかを考える過程も含まれています。ブランド形成やアイデンティティ形成において、作って終わりではなく、その後の展開が本当のスタートだと思っています。 埋金例えば、集合恐怖症や先端恐怖症など、様々なお客様がいます。その中で、ネガティブな要素をそのまま受け入れるのではなく、しっかりと検討した上で、多くの方に親しんでいただけるように工夫しています。ブランディングは、どちらかと言えば時間をかけて進めていく作業です。しかし、全てをカバーすることは難しいと思います。auブランドとしては、より多くのお客様に興味を持って接していただきたいと考えています。ネガティブな要素に気を付けつつも、最終的にはそれを完全に排除してしまうと、尖りのない印象になってしまうのではないかと思います。このさじ加減が非常に重要だと感じています。 ──最後に同者の方へメッセージをお願いします 埋金今回は「au V.I.」に関心を持っていただき、この記事を読まれる方も多いと思います。ビジュアル・デザインから入っていくことになると思いますが、auの世界観は非常に広くて楽しいことがたくさんあります。ぜひ、さまざまなauサービスを体験してほしいと思います。 土井「au V.I.」を通じて「おもしろいほうの未来へ。」というブランドイメージをしっかり皆様に伝えていきたいと考えています。auの変化を、ぜひこれからも見続けていただければと思います。 坂本「おもしろいほうの未来へ。」の世界観を存分に味わっていただけるようなサービスやプロモーションをどんどん打ち出していきたいと思っています。おもしろいほうの新しい体験価値を「au V.I.」とセットで全社一丸となってお届けできるように努めていきますので、今後の展開に是非ともご期待ください。 KDDIの「au VISUAL IDENTITY」は視覚的な統一感だけでなく、ブランド哲学を洗練された形で伝える試みの一環であることがわかりました。9月のサイトジャックが単なる装飾にとどまらず、深いメッセージ性を備えていた点が印象的でした。状況に応じて変化しながらも一貫した世界観を表現する「キュリオスアメーバ」を通じて、auが描く「おもしろいほうの未来」の展開が楽しみです。
TechnoEdge 森 元行
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