“ハロヲタ”天音かなた、山崎あおいにアイドルを輝かせる楽曲制作術を聞く 「枠に縛られないのがハロプロのすごさ」
ホロライブプロダクション所属のVTuber 天音かなたの新連載「天音かなたは音楽を学びたい!」第2回のゲストは、シンガーソングライター 山崎あおいが登場。同連載は、自身でも楽曲制作を行う天音かなたがホストを務め、様々なアーティストやクリエイターにインタビュー。音楽制作のプロセスやアーティストとしてのスタンスについて話を聞いていく。 【画像】天音かなた、フェスステージで熱唱 山崎あおいはシンガーソングライターとして活動をすると同時に、他アーティストやアイドルに楽曲提供を行ってきた。その中でもアンジュルムやJuice=Juiceなど、ハロー!プロジェクト所属のグループには数多くの楽曲を提供してきた。 一方、天音かなたは自身のYouTubeでもハロー!プロジェクトのファン=“ハロヲタ”であることを公言しており、つんく♂がオリジナル曲「純粋心」を提供しているほか、過去にはオーディションを受けた経験まであるという。 本インタビューでは、山崎あおいのキャリアを辿るとともに、ハロー!プロジェクト所属グループへの提供曲の制作エピソードやアイドル楽曲を作る上で意識していることなどを天音かなたが掘り下げる。(編集部) 安倍なつみ、鈴木愛理への楽曲提供で開かれた作家業への道 天音かなた(以下、天音):僕は昔からハロー!プロジェクトをずっと追いかけているんですけど、その中で山崎さんの存在を知ったんですよね。大好きなグループ、Juice=Juiceの「「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?」という曲がきっかけだったんですけど。 山崎あおい(以下、山崎):ありがとうございます。その曲が好きだと言ってくださる方がけっこう多くて。ありがたいです。 天音:めちゃめちゃいい曲ですよね! あんなに素晴らしい曲を作られた山崎さんは絶対にすごい方だと思い、今回お声がけさせていただきました。山崎さんはYUIさんに憧れてギターを始めたそうですが、プロのアーティストとして活躍されるようになったのはどんなきっかけからだったんですか? 山崎:ギターを始めたのは中学生ぐらいなんですけど、YUIさんがきっかけでシンガーソングライターというスタイルにもすごく憧れるようになって。こっそり部屋でギターを弾きながらオリジナルの曲を作ってみたりしていました。で、高校1年生のときに出たオーディションでグランプリをいただいたのがきっかけでデビューすることになったんです。 天音:すごい! 高校生でオーディションを受けるなんてすごく行動力がある! 山崎:いやいや、若さゆえの勢いで(笑)。高校時代は地元の北海道でインディーズ活動をしていて、大学進学で上京したタイミングでメジャーデビューしました。プロとしてはそこからがスタートという感じでしたね。 天音:メジャーデビューされたときの心持ちはどうでしたか? やっぱり大きな気持ちの変化があるものですか? 山崎:私はずっとメジャーデビューを夢見ていたので、それが実現できれば売れるはずだ、ドラマの主題歌とかが歌えるはずだと想像していたんですけど、実際はデビューした途端に首を切られるまでのカウントダウンが始まったみたいな気持ちになっちゃって(笑)。ちゃんと結果を出さなければいつ契約が切れてもおかしくない、いつ音楽をやめなきゃいけないかわからないみたいな感じで、焦る気持ちの方が大きかったですね。 天音:でも切られずにここまで活躍されてきたわけですもんね。 山﨑:いや、途中でレーベルとの契約が終了したりってことはありました。今はシンガーソングライターとしての活動はインディーズでやってます。DIYな感じで(笑)。 天音:音楽DIY素敵です、山崎さんの音楽の道が続いて良かった。山﨑さんはシンガーソングライターであると同時に、いろいろな方に楽曲提供をされているクリエイターの一面もありますよね。僕の大好きなハロプロにもたくさん曲を書かれていますが、そういう活動を始めたのはどんなきっかけからなんですか? 山崎:最初は安倍なつみさんのソロ楽曲なんですよ。まだシンガーソングライターの活動しかやっていなかった時期に、たまたま私と同じ北海道出身の安倍なつみさんとご縁があって、アルバムで1曲参加させていただいたんです。もうひとつのきっかけとしては鈴木愛理ちゃんですね。愛理ちゃんは大学の1年後輩だったので、ソロデビューをするタイミングで書かせていただくようになって。そこからいろいろな方に書かせていただくようになったのは、本当に偶然が重なった結果だと思います。 天音:そうかあ。いろんな縁が繋がって今の活動があるんですね。 山崎:あともうひとつ。2016、17年くらいに一度、発声障害でライブやレコーディングを休止せざるを得ない状況になってしまったんです。その時期はちょうど大学を卒業するタイミングでもあったので、人生に対して行き詰った感がすごくあって。「このまま一生治らなかったら……」「一生歌えなかったら……」みたいなことをすごく考えていたんですよね。ただ、私は自分の曲を誰かに歌ってもらうことに対しても興味があったので、そっちの活動を全力で頑張ってみようかなと思うようになったんです。それも本格的に楽曲提供をするようになった大きなきっかけだったと思います。 天音:なるほど。シンガーソングライターから楽曲提供の方向に一旦シフトするっていう行動力や柔軟性を持たれているところは本当にステキですよね。僕だったらふさぎ込んで、「もう死のうかな」ってなるんで(笑)。 山崎:いやいや(笑)、私はただ怖がりなんだと思います。 天音:お話していると山崎さんはすごくポジティブな方なんだなっていう印象があるんですけど、ご自身ではどう感じていますか? 山崎:根本はめちゃくちゃネガティブだとは思うんです。でも、ネガティブだからこそ落ち込んだり、立ち止まっている状態がすごく怖いんですよ。だから私にとっての不安の解消の仕方は、とにかく手や足を動かすことしかないんです。何もしていないと不安で仕方なくなってしまうので。 天音:いやーすごい! 僕も人生をかけて見習いたいと思います。ちなみに提供した楽曲をご自身でも歌いたいと思うことってあったりしますか? 山﨑:たまに……いや、けっこうありますね(笑)。なぜかはわからないんですけど、自分用に作ってた曲が提供する方のイメージにマッチすることがよくあって。そういうときは「自分用のはまた別に作るので、これはぜひ歌ってください」ってお渡ししちゃうっていう。私は人に歌ってもらうことが幸せなので、それは全然ありがたいことなんですけどね。ただ、それによって自分のアルバムの制作が全然進まないってことがよくあります(笑)。 「カラオケを通して印税を送らせていただいております(笑)」(天音) 天音:ステキな楽曲をたくさん作られている山崎さんが普段どんな音楽を聴かれているかも気になります。 山崎:普通にヒットチューン的なのも聴きますし、自分のやっている音楽から遠いところで言えば映画音楽はすごく好きですね。サウンドトラックをよく聴きます。 天音:へえ! それは洋画のものですか? 山崎:そうですね。洋画のサウンドトラックが多いです。それこそハリウッドのドーン!みたいな感じのものもよく聴きますし。私は映像にマッチする音楽が好きなんだと思います。自分の曲を作るときも映像からイメージして書いたりすることが多いんですよ。誰かのミュージックビデオを、音をミュートした状態で流しながら、「ここにはどんな音楽が流れているんだろう?」って想像しながら曲を書いていくっていう。視覚から入ってきたものをインスピレーション元にすることが多いんですよね。 天音:その作り方はすごい! 僕にとっては想像もしなかったやり方なので今、感動しています! 山崎:めっちゃいいですよ。曲が生まれやすいと思います。 天音:いいアイデアをひとついただきました! ぜひ試してみようと思います。 山崎:天音さんはどうやって楽曲を作っているんですか? 天音:僕はまだまだ曲作りに関しては素人なので、うんうん唸りながらコード表とにらめっこしながら作っていく感じですね。「いいメロディが降りてきた!」みたいなことは全くなく。常に難産です。 山崎:楽器は使うんですか? 天音:最近、ギターを頑張って練習してるんですけど、まだ全然上手く弾けるレベルではなくって。なので基本はDTMの打ち込みで作ります。 山﨑:へえ、すごい! 最近よく思うんですけど、楽器が弾けるがゆえの縛りみたいなものって絶対にあると思うんですよ。自分の手癖のコード、弾きやすいコードばかりを使ってしまいがちになるというか。でも今って、楽器は弾けないけどパソコンで自由に音楽を作れるボカロPやトラックメイカーの方々がたくさんいて、すごくおもしろい曲を生み出しているじゃないですか。私にはできないなと思うことをみなさんやられている。そういう意味では天音さんが楽器をマスターする前にDTMで曲作りを始めたのはすごく羨ましいことだなってすごく思いますね。 天音:確かにそうかもしれないですね。僕は音楽理論がわからないし、むちゃくちゃなコードをすごいタイミングで使ったりすることもあると思うんですけど……。 山崎:それが逆に個性になることもありますからね。 天音:そうですね。おもしろさに繋がることもあると思うし。山崎さんにそうおっしゃっていただけるとすごく勇気が出ます。とは言え、今のVTuberの活動の中で楽曲制作をたくさんやっていくのはなかなか難しいところもあって。もっとたくさん楽器を練習したり、楽曲制作をしていきたいなって思ったりしてるんですけど(笑)。 山崎:天音さんの音楽的なルーツも知りたいです。どんな音楽を聴くのかとか、なぜ曲を作ろうと思うようになったのかとか。 天音:僕は青春時代にずっとパソコンをやっていたタイプで。ニコニコ動画をずっと見ていたし、先ほど山崎さんがおっしゃられたボカロも黎明期から触れてきていたんです。プロではない方が作った楽曲であっても、それがよければネットを通してみんなでワーッと盛り上がれる世界が本当に楽しかったので、自然と自分も曲を作ってみたいと思うようになったんですよね。ただ昔はDTMの機材が高くて手が届かなかったので、今になってやっと夢が実現できるようになった感じですね。 山﨑:しかも今の天音さんにはたくさんのファンの方がいらっしゃいますから。届ける先が明確に見えていると、楽曲制作へのモチベーションも変わってきますよね。 天音:もうおっしゃる通りすぎます! 僕のファンのみんなは、僕が作曲に挑戦していることを喜んでくれている節があるので。みんなが「天才!」とか言ってくれると、また頑張って作ろうかなっていう気持ちになるんですよね。 山﨑:「天才」って言ってくれる人がいるのはいいですね(笑)。 天音:えー山崎さんも天才じゃないですか! 本当にステキな曲ばかりを作られていますもんね。 山﨑:あははは、ありがとうございます。褒め合っていきましょう(笑)。 天音:山崎さん、ほんとにすごいから! 最初に言いましたけど、僕は本当に「「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?」が大好きすぎて、一時期狂ったように聴きまくっていたんです。すべてが完璧すぎる、最高だと感動してしまって。何度もカラオケを通して印税を送らせていただいております(笑)。 山崎:ありがとうございます(笑)。チャリーン! 天音:チャリーンさせていただきました(笑)。で、あの曲を聴いていて感じたんですけど、タイトルとか歌詞にハロプロ味がすごく詰まっているじゃないですか。そのあたりは意識なさっているんですか? 山崎:それはたぶん、私のカラダにハロプロの要素がインストールされてるから無意識に出ているところだと思うんですよね。ハロプロを意識してタイトルをつけるというよりも、ハロプロだったら許されるかなと思ってつけるタイトルはけっこうあったりはするんですけど。 天音:あーなるほど! 山﨑:例えば「「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?」ってタイトルを他のアイドルさんの曲につけると、アルバムに入ったときに1曲だけ毛色が違いすぎて浮いてしまう可能性があると思うんです。でも、いろんな楽曲が揃っているハロプロの場合なら大丈夫だよなって思えるというか。そういう意味ではすごく自由に曲を書かせていただけているような気がしますね。 天音:モーニング娘。さんの「この地球の平和を本気で願ってるんだよ!」って曲もあったりしますもんね(笑)。地球の平和を願ってるのはすごくハロプロ感がある。 山﨑:そうですね。ハロプロ以外のアーティストさんに向けて、そういうタイトルの曲を書く勇気はなかなか出ないですよね。 天音:枠にとらわれない、めちゃくちゃ広い視点で世界を歌えるのはハロプロっぽさのような気がしますよね。 山崎:宇宙、地球規模の話があったかと思えば、逆に100円ショップが出てくるようなすごく身近な話があったりもしますしね。J-POPはこういうことを歌うべきだよね、みたいな枠に縛られないのがハロプロのすごさだと思います。私は元々そういうタイプの人間ではなかったけど、ハロプロに曲を書かせていただいたり、ライブに足を運ばせていただく中で、徐々に影響を受けてきたところも大きいような気がしますね。ハロプロらしい物差しが自分の中にちょっとずつ生まれつつあるなって最近はすごく感じていますね。