なぜフランスでは「日本アニメ」が人気なのか? 背景に「安さ」と「気候」
宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が第96回米アカデミー賞の長編アニメーション映画賞を受賞し、いっそう注目を集めている日本アニメ。とくに日本アニメを愛する国としてフランスが知られるが、人気の理由はいったいなんなのか? そして19世紀にも起きた「日本ブーム」はどう始まり、どう終わったのか? 「日本ブーム」の歴史を追ってみたい。 ■フランスで讃えられる日本の「サブカルチャー」 2024年1月、フランス南西部の街アングレームで開催されたヨーロッパ最大級の漫画の祭典「アングレーム国際漫画祭」では、『ポーの一族』で知られ、「少女漫画の神様」との呼び声も高い萩尾望都の栄誉を称える特別回顧展が催された。 また、昨年の7月13日から16日の4日間にパリで開催された日本文化の祭典「ジャパン・エキスポ」(2000年に開始)は来場者が延べ25万5037人を数え、歴代最高を記録した。 日本文化の代表として、あくまで歌舞伎や能など古典芸能を推す人びとは渋い顔をするだろうが、今や「クール・ジャパン」の牽引役が漫画・アニメとB級グルメであることは、否定しようない事実である。 とはいえ、なぜ日本の漫画とアニメがフランスでここまで受け入れられ、人気を集めているのだろうか? ■フランスのアニメに比べて格安だった日本アニメ フランスで最初に受け入れられた日本のアニメは永井豪原作の『UFОロボ グレンダイザー』だった。日本国内での放送は1975年10月から1977年2月までで全74話。フランスでは『ゴルドラック』のタイトルで1978年7月に放送が開始された。 フランスの小学校は9月が年度の始まりで、夏休みは7月初旬から8月末までの2か月弱と、日本よりも少し長い。例年なら屋外でのびのびと遊ぶところ、その年は雨の日が多く、子どもたちは家の中で過ごさねばならなかった。自然とテレビを見る時間が増え、そこでたまたま放送されていたのが『ゴルドラック』だった。 テレビ局側は雨の夏休みを想定していたわけではなく、当時、フランス国内でのアニメ制作費が1話あたり1400万円であったのに対し、日本のアニメを輸入すれば1話あたり20万円で済むというので買い入れを決めたそうだが、いざ初めてみれば、『ゴルドラック』は爆発的な人気を博し、視聴率100パーセントを記録した日もあった。 フランスにはアジアへの蔑視も根強く、暴力描写やエロ描写の多さを理由に、テレビから日本アニメが一掃された時期もあるが、それが逆に日本のアニメや漫画をカウンターカルチャー、サブカルチャーとして広く深く浸透させることとなり、「ジャパン・エキスポ」の定例化につながった。 ところで、フランスで日本ブームが起きたのは、これが初めてではない。実は19世紀にも空前のブームが到来していた。