【漫画】過去のいじめと向き合う青年の葛藤…リアルな人間ドラマに「早く天罰下りますように」の声
コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回はしたら領さんが描く居場所のない少年を追うヒューマンミステリー『池田くんは殴りたい』をピックアップ。 【漫画】「自分を守れるのは自分だけ」いじめの連鎖を描く物語に「誰も正しくなんかない」の声 作者のしたら領さんが2023年7月4日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ反響を呼び、いいね数1.3万以上の「いいね」が寄せられ話題を集めている。この記事では、したら領さんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについてを語ってもらった。 ■いじめの過去と向き合う青年の葛藤 主人公の名前は“イケダ”。イケダは同じ学校の同級生、五味(ごみ)ケンタを率いるグループが日常的にいじめているのを見て、怯えていた。イケダと親しいノブスケも同様に、いじめの対象になっていた。 しかし、ある日ケンタは、ケンタ自身もかつてノブスケにいじめられていた過去があると告白する。どう見てもいじめっ子であるケンタが、過去にいじめられていたとは信じがたいイケダ。しかし、ケンタはその時の記憶を語り始める。 ケンタが中学2年生だった頃、夏休み明けすぐに、苗字の「五味(ごみ)」をからかわれ、いじめが始まった。いじめは次第にエスカレートし、ロッカーに閉じ込められたり、持ち物がなくなったり、暴力を振るわれる日々が続いた。ケンタはこのことを誰にも言えず、ずっと一人で耐えていた。そして、唯一話を聞いてくれたのがノブスケだったが、そのノブスケに助けを求めた次の日、ノブスケに裏切られ首を絞められたのだ。 ケンタは、その出来事から「自分を守れるのは自分だけ」という結論に至り、いじめをやり返し、クラスのいじめはなくなったのだが…。 物語を読んだ人たちからは「早く天罰下りますように」「クズはどこまでもクズってこったな…」「自分が守るのは自分」「あんま言いたくないけど自分もこれなってそうで怖い」など、反響の声が寄せられている。 ■きっかけはアルバイト先の事件 ――『池田くんは殴りたい』を創作したきっかけや理由があれば教えてください。 昔、所属していたアルバイト先で起きたとある事件がきっかけです。そのバイトは引越しの仕事で、正社員とアルバイトが混合して業務を行います。たいていの場合、正社員はドライバーで、アルバイトは助手席でナビなどをします。トラック一台につき二人で回ることが多く、その事件が起きたのも正社員の方と二人で現場をいくつか回っていました。 その正社員の方は元柔道部で、筋骨隆々、耳はいわゆる餃子耳でスキンヘッドでした。仮にその方を「柔道センパイ」とします。その事件とは、トラックの荷台で道具の片付けをしている時に起きました。柔道センパイに首を絞められ持ち上げられたのです。 実はその事件が起きる一ヶ月前ほどから、正社員の方々から、きつい現場を任命されたり、後片付けを押し付けられたりなど、自分に対する圧力を感じていました。なぜそうなったのか?タイミングから予想するに、おそらく私の不用意な発言が原因です。それは仕事終わり、正社員の方々が輪をつくって雑談をしていた時でした。そこにちょうど私もいて、早く帰りたかったのですが、なんとなく帰りづらくて皆さんの話を聞いていました。 そこで出た話題が「どうして引越しの仕事をしているのか?」というものでした。皆さん、特に正社員の方は仕事に誇りを持っている方が多く、ふざけながらも各々熱い思いを語っていました。そんな矢先「したらはどうして引越しなんだ?」と話をふられたので、思わず「お金のためです」と答えてしまいました。 素直に答えたつもりだったのですが、その瞬間空気がピリッとしたのを感じました。照れ隠しで半笑いで答えてしまったのが良くなかったのかもしれません。それ以来、いじめのような嫌がらせが続きました。そして柔道センパイの事件がそのピークというわけです。 前置きが長くなってしまいましたが、つまりその首を絞められている時、私は「死」を感じていました。このまま殺されたくはなかったので、いざとなったらポケットにあるボールペンでそのセンパイの目を刺そうと思いました。結果として、センパイは程なくして手を離し、私はことなきを得たのですが、もしあの時私がボールペンでセンパイの目を刺していたらどうなっていたか?私は被害者から加害者に転じていたかもしれないと思いました。 そして自分の暴力性についても考えることになりました。どのような状況になれば私は「引き返しのつかない暴力を振るうのだろう?」と。もしくはどこまでいっても「振るえないかもしれない」と。 ――キャラクターはどのように生み出されたのか、お教えください。 どのキャラクターも自分のかけらを誇張したものだったり、自分の体験を矮小化したものです。池田くんは学生の頃の自分の一部部分ですし、ヒロインの伊藤モエは出会ってきた女性たちの、ある一部分を煮詰めて抽出したキャラクターです。 ――作画の際にこだわっている点や「ここを見てほしい」というポイントがあれば教えてください。 ヘタウマにこだわっています。それは私が、ただただ上手い絵よりも、魅力はあるけれど、どこか下手というかアンバランスな部分のある絵に惹かれるからです。どこかキュートな絵が好きなので、自分もそうなるように、下手なまま上手くなるように心がけて描いています。 ――特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。 たくさんあるので選ぶのが難しいのですが、強いてあげるなら…やはり池田くんが初めて人を殴るシーンです。 理由は、わかりやすくタイトル回収しているのと、やはり作品の大きな転換点と言いますか、ここから池田くんは分かりやすく堕ちていき、追い込まれていくので。作品のテーマにも迫る大事なシーンです。 ――一から世界観を創り上げ物語を展開していくうえでこだわっている点や特に意識している点をお教えください。 ライブ感とリアリティを意識しています。ライブ感とは、全体の構成や大きなテーマよりも、原稿を描いている瞬間の、キャラとの対話を重視しているという感じです。もちろん構成やテーマも大事だし、そこは行ったり来たりなのですが、キャラが勝手に動き出す瞬間こそが醍醐味だと思うので、キャラに引っ張られながら、つどつど全体を調整して描いています。逆に言うと、全体の構成力が課題です。 リアリティとは、「自分の実感を大事にする」ということです。過去に自分が感じた想いや感覚、それらをカリカチュアしつつ、物語に乗せて、読者に届けるのが自分の仕事かなと思っています。なので読者さんが自身に重ねて読んでいるという感想をもらうと、嬉しいです。 ――今後の展望や目標をお教えください。 1年ほど前に、完全なフリーランスの漫画家として独立しました。今は活動の足場を固めるのが目標です。主にnoteのサブスクリプションと、電子書籍の売り上げで生活しているので、その両方の売り上げをある程度まで高めて維持すること。それが自分の自由な創作に繋がると思っています。 もう少し先の話だと、絵本を描いてみたいです。絵本とまんがの魅力の良いとこどりをしたいと思って、作家活動を始めたところもあるので、両方の魅力を伝えつつ、漫画にもフィードバックできたら良いなと思っています。 ――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします! いつもありがとうございます。おかげさまでこうして漫画で生活できています。一人で描いているので、どうしても物語の進捗が遅くなりがちではありますが、誠実に、楽しみながら一歩一歩作品を届けていこうと思っています。 「池田くんは殴りたい」と「太陽と怪物」を描き終わったら、「子ブタの勇者見習い」の物語を描く予定です。現在ちょっとずつ担当編集と企画をつくっています。今後もお付き合いいただけたら嬉しいです。