『虎に翼』片岡凜の不気味な表情が生む“緊張感” 寅子は美佐江を救うことができるのか?
新潟市内で起きた事件に美佐江(片岡凜)が関わっているという疑惑が持ち上がる。美佐江に関しては数々の不明な点があったが、ここにきて徐々にその輪郭が浮かび上がってきた。『虎に翼』(NHK総合)第92話では、寅子(伊藤沙莉)が美佐江と正面から向き合う。 【写真】美佐江(片岡凜)に恐怖を感じ、娘をかばう寅子(伊藤沙莉) 新潟市内では、女子高生が男に売春を持ちかけて、財布から金を盗む事件が多発していた。美佐江はその事件に関与した女子高生2人と一緒にいたことから嫌疑をかけられていたのだ。しかも、補導された女子高生は赤い腕飾りをしていることが明らかになった。後日、喫茶「ライトハウス」を出ようとした寅子たちの視線には窃盗事件の被害者・元木(山時聡真)がいた。元木も女子高生と同様に赤い腕飾りをしており、美佐江とのつながりが疑われている。そこに美佐江も現れるが、寅子に挨拶をすると、そのまま「ライトハウス」へと入ってしまう。 その後、美佐江が寅子のいる三条支部を訪れてきた。美佐江は補導された時はあくまでも一緒にいただけだというが、寅子が「その子たちは腕飾りをあげる特別な存在?」と聞くと、美佐江は言葉を濁す。美佐江にとって赤い腕飾りは何を意味するのか、「特別な存在」という言葉が意味することとは何なのか。寅子は「本当のことを話してくれない?」と美佐江に寄り添うのだった。それが正しいか正しくないかは分からないが、裁判官としての役割を超えた寅子の行動は実に彼女らしい。 自分が恵まれていることを自覚し、そんな自分が何をせずとも周りの人が近寄ってくるということは自分に魅力があるときっぱりと言う美佐江。そのうえで、「なぜ悪い人から物を盗んではいけないのか」「なぜ自分の体を好きに使ってはいけないのか」「どうして人を殺してはいけないのか」が分からないと語る。寅子は「答えがほしくてやってるってこと?」と問いかけるが、またもや濁されてしまう……。
娘の存在を知り、美佐江(片岡凜)の表情が変わるシーンの緊張感
美佐江は自分のレゾンデートルを満たすために、周りの仲間を使って、善悪の境界線を探し続けているのだろう。自ら特別であり続けるために、犯罪行為に手を染めている美佐江をどうしたら救うことができるのか。それにしても片岡凜の演技が素晴らしい。言葉には現れない不気味な表情の機敏によって、シーンに緊張感が生まれていた。 今すぐ納得した答えは出せないとしつつも、「一緒に考えてみない?」と話す寅子。美佐江は寅子のほうを振り向き、2人の距離が近づきかけたと思いきや、偶然優未(竹澤咲子)が現れると、その瞬間、美佐江の表情が変わる。それを見た寅子は恐怖を感じ、とっさに優未を抱き寄せた。美佐江は寅子が自分にとって特別な存在なのだと思いかけていたが、寅子にはすでに大切な娘の存在があった。それによって、完全に美佐江は寅子に対して心の扉を閉ざしてしまうという一連のシーンはお見事だった。 年が明けた1953年1月、美佐江の審判が行われないことが決定した。寅子はどうしたら美佐江を救うことができるのか考え続けるが、まだまだ答えは見つかりそうにない。「ライトハウス」で寅子を見つめて微笑む美佐江の表情が不安を増長させる。
川崎龍也