市川染五郎『鬼平犯科帳』への出演は、父・松本幸四郎の「力になれたらという心境で」 鋭いナイフのような若き“鬼平”役で存在感
役作りは父の“平蔵”を感覚として自分の中にしみ込ませていく作業から
――「血闘」は酔った銕三郎が、くだを巻くシーンから始まりますが、どんな心境で演じていましたか? いやぁ、まだ20歳になっていないのにいいのかなと思いながら酔っぱらっていました(笑)。銕三郎にとって、盗人酒屋で飲んで酔いつぶれて、おまさ(中島瑠菜)に介抱されるのはいつものことだと思ったので、日常の中のひとコマということを意識してやっていました。 ――同じ人物を演じるにあたって、幸四郎さんと話したことはありますか? 父と意見を交換し合ったり、芝居をすり合わせたりということはほとんどなく、仕草や佇まいにおいては、お猪口(ちょこ)の持ち方を尋ねたくらいです。 銕三郎と平蔵がリンクするような場面は、父が先に撮影をしていたら、そちらを見てから自分の方の撮影に臨むということはありましたが、理屈でお芝居を作っていくのではなく、父の平蔵を感覚として自分の中にしみ込ませていくという感じでしたね。 銕三郎にとって平蔵は未来の自分の姿で、未知の時代でもあるので、逆に父が演じる平蔵を意識することはあまりなかったです。 ――役柄をはなれたところで幸四郎さんと似ていると感じるところはありますか? やはり親子ですので、舞台に立っていると、顔つきが似ている瞬間や、舞台での発声の仕方が似ていると言っていただくことがあります。普段の声はまったく違うんですけどね。
歌舞伎と時代劇の殺陣はまったくの別物だった
――年齢を重ねた平蔵は長官としての貫禄にあふれていますが、銕三郎はまだ青さを感じさせる役柄です。演じるうえで意識したのはどんなことですか? 若いころから「鬼銕(おにてつ)」と呼ばれ恐れられた人物ですから、存在感や威圧感を出せたらと考えていましたが、やはり、長谷川平蔵が主役の作品で、存在感を出し過ぎてしまっては意味がありませんので、そのあたりの塩梅が難しかったです。 僕自身が現在19歳で、銕三郎も10代後半くらいの設定。だけど、脚本を読んで感じた雰囲気から、もう少し上の年齢を意識したほうが銕三郎っぽくなるのではないかと考えたので、25、26歳ぐらいを想定しつつ、若さゆえの危なっかしさ、ナイフのような鋭さを出したいと思って演じていました。 ――銕三郎と染五郎さんの共通点はありますか? 僕もどちらかというと突っ走ってしまうタイプといいますか、やると決めたらきちんとやらないとどうにも気持ち悪くなってしまうので、そこは似ているのかもしれません。 ――銕三郎の見せ場の一つに土壇場の勘兵衛(矢柴俊博)宅での立ち回りがありますが、歌舞伎の立ち回りとの違いについて聞かせてください。 歌舞伎のほうは決まった形の美しさ、魅せることを意識した様式的な殺陣で、時代劇の場合はもっとリアルといいますか、一手一手がとても細かく速い。そういう意味では歌舞伎と時代劇の殺陣は別物です。だからこそ、新鮮な気持ちで臨むことができました。