領土奪還に執着する「政治家」ゼレンスキー、現実を知る「軍人」総司令官を解任で、戦況に与える影響とは
戦争で政治指導者と総司令官が疎んじ合うのは珍しくない
キーウ国際社会学研究所(KIIS)の世論調査(昨年12月4~10日、18歳以上のウクライナ国民1200人)によると、ロシア軍の猛攻を食い止めるウクライナ軍へのウクライナ国民の信頼度は96%で、1年前から変わらない。ザルジニー総司令官も88%の信頼度を得ていた。一方、ゼレンスキー氏の大統領職への信頼度はこの1年で84%から62%に低下した。 戦争で政治指導者と総司令官が疎んじ合うのは珍しいことではない。朝鮮戦争でハリー・トルーマン米大統領は、核兵器使用を主張するダグラス・マッカーサー国連軍総司令官を解任。バラク・オバマ米大統領は2010年、ジョー・バイデン副大統領(当時)ら政権関係者を公然と中傷したアフガニスタン駐留軍司令官スタンリー・マクリスタル氏を解任した。 イラク、アフガニスタンに従軍し、米統合参謀本部の戦略官も務めたミック・ライアン元オーストラリア陸軍少将は自分の有料ブログに「2人の間の緊張は少なくとも1年間、それ以前に逆上っても明らかだった。平時であれ有事であれ、文民と軍の関係には常に緊張がつきまとう。しかし民主主義国家では文民指導者が常に軍に対して優位に立つ」と指摘する。 「ザルジニーは総司令官として人気がある。彼はロシアの大規模侵攻の数週間前から準備していた。これによりロシアのキーウ侵攻を撃退する鍵となった重要な要素が確保された。しかし南部の大半はアッという間に陥落した。ロシアの兵站拠点であるクリミアからの支援が容易だったためだが、ザルジニーには責任の一端がある」(ライアン氏) ■プーチン「戦争終結の話し合いの時が来た」 解任の理由について、ライアン氏は「反攻失敗の結果、膨大な死傷者が出た上、ロシアのプロパガンダに利用された。文民と軍の緊張を悪化させ、米国の一部にウクライナへの支援を見直させるという外交的被害が生じた。 このような失敗の後では説明責任が極めて重要になる。ザルジニーは総司令官としてその責任を負わなければならなかった」と解説する。 解任によってウクライナ軍の指揮、軍内部の不満、大統領への助言、同盟国や安全保障パートナーとの関係、政府の安定に影響が出ることが予想される。ザルジニー氏が今後どう振る舞うかも大きなインパクトを持つ。「反攻の失敗以来、ウクライナの戦略と全体的な戦争努力に何らかの揺り戻しやリセットが必要であることは以前から明らかだった」(ライアン氏) ウラジーミル・プーチン露大統領は8日、元米FOXニュースの司会者のインタビューに応じ、戦争を終結させるためにウクライナの領土をロシアに割譲する「協定」を結ぶことを米国側に求めた。610億ドル(約9兆1000億円)のウクライナ支援に待ったをかける米共和党と返り咲きを狙うドナルド・トランプ前米大統領への秋波である。 「ポーランドにも、ラトビアにも、他のどこにも興味はない。西側が恐怖心を煽っているだけだ。ロシアが戦場で負けることはないと西側の権力者たちが悟ったからこそ戦争終結の話し合いの時が来た。話し合いが実現するとしたら、彼らは次に何をすべきかを考えなければならない。われわれには対話の準備ができている」とプーチンは勝ち誇ったように言った。 プーチンは軍の態勢を立て直すため、時間を稼ぎたい。時間は人的にも、物的にも優位に立つロシアに有利に働く。81歳になったバイデン大統領のボケ方が白日の下にさらされる中、ウクライナの旗色はますます悪くなっている。