「今じゃ誰も避難しないよ」…恒常化した戦争がウクライナにもたらした「ヤバすぎる現実」
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第17回 『プーチンを批判したロシア人記者を襲う、ロシア当局の「家族」を使った「卑劣すぎる仕返し」』より続く
ガソリンに激怒
翌朝、わたしたちのクルマはパランカ国境検問所に近づいた。前にウクライナナンバーのクルマが何台かいた。絶え間なく空爆にさらされながらも家に帰ろうと決めた人たちだった。クルマの列に沿って制服の男がゆっくりと歩いてきた。 わたしたちのところまで来ると、男は許可証を手に取り、トランクを開けるように言った。ガソリンの入った2つの大きなタンクを見つけると、国境警備員は激怒した。 「ガソリンは20リットル以上持ち運び禁止だ」 「でもウクライナでは燃料がないんだ」ニックが反論しようとした。「給油できる場所がないんだよ」 「そんなことはどうでもいい。規則は規則だ」国境警備員がきっぱりと言った。 ニックにはどうしようもなかった。ガソリンの入ったタンクを税関に置いた。その後、わたしたちは通過を許された。