朴槿恵大統領の弾劾案可決 「慰安婦合意」が覆ることはあり得るのか
国際法上は「拘束力はない」
しかし、再交渉に日本政府が応じることはないでしょう。1年前の合意により慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決された」ことは両国政府が確認しあったことであり、しかも文書に明確に記載されています。 国際法では政府間の合意には国家を拘束する力がないとされていますが、それは理論の問題です。両国政府が合意したことが、政権が代わったからと言って守られないと信頼は失われ、政治・経済・文化面にわたる密接な協力関係は甚大な影響を受けるでしょう。日本は新大統領に誰が選ばれようと、韓国に対しあくまで日本との合意を守ることを求めていくでしょう。当然のことです。 ただし、「慰安婦問題」については国際的な同情があり、日本政府が開き直ったりするとその悪影響は計り知れないものがあり、それには注意が必要です。この問題についてはあくまで丁寧に、誠意を尽くして対応していかなければなりません。 朴大統領の退陣を求めて広場を埋め尽くした人々がコンサート会場よろしくペンライトを振りながら弾劾の決定に喜んでいる姿もどうかと思いますが、朴槿恵大統領の責めに帰せられるべき過ちが何であり、またどれほど深刻か、まだ明確になっていないのに弾劾という強制的手続きで大統領の職務を停止することが妥当か、隣国のこととは言え、正直なところ、強い違和感を覚えます。 ともかく、韓国における世論と政治との関係は、日本の今後の対韓政策にも参考にしなければならないと思います。
------------------------------ ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹