幻の楽天監督が語る星野監督の新境地
1985年の阪神同様 選手が主役
古い話で恐縮だが、1985年に日本一になった阪神タイガースがそうだった。監督は吉田義男さんだったが、トップバッターの真弓さんから、バース、私、岡田……と、主役は選手だった。選手が、主役になるチームには、必ず手の付けられないような勢いがあある。この日の西武とのゲームがそうだった。そしてチームカラーが明確に見えるのだ。 どこの試合だったか、ジョーンズが、星野監督のお尻をポンポンと叩いていた場面を見たことがあった。これまでの“怖いオーラ”を漂わせていた星野監督では考えられないシーンである。だが、それが、今季の楽天の象徴のように思える。強権を発動するのではなく選手がノビノビと力を発揮できる雰囲気と環境作りをしたのだろう。星野監督は、間違いなく指揮官としての新境地を開かれた。
マー君の連勝記録を演出
その采配についての特徴は、大胆さと我慢ではないだろうか。 大胆さは、則本というルーキーの開幕投手への抜擢、そして若い野手に積極的にチャンスを与えたこと。そして、おそらく、これも星野監督が考えたことだろうと思うが、マー君を“裏ローテー”へはめこんだことである。スタートはWBCへ参加していた疲れを考慮してローテーションをずらしたものだろうが、結果、相手チームのエース級とマッチアップすることがシーズンを通じて少なくなった。WBCで精神的ダメージを受けていたマー君も、その環境の中で勝ち星を重ねることで自信をつけていった。 落合博満氏が、中日の監督時代、エースだった川上憲伸をさしおいて、FA移籍後、故障続きだった川崎憲次郎を開幕投手に抜擢したことがあったが、そのローテーションの“ズレ”が、シーズンを通してみると、生きてきて、川上は最多勝を取った。私は、マー君の連勝記録を演出したのは、星野監督の細やかな気配りだったと見ている。
監督と経営サイドとの連携
これは、もう語り尽くされているが、星野監督は、ジョーンズ、マギーという2人の大物外国人を獲得すると、我慢して使った。例えジョーンズの打率が上がらなくとも方針はぶらさなかった。阪神時代は、金本という影響力のある選手を広島からFAで獲得して、チームに刺激を与えたが、まさに楽天の2人の外国人の存在は、阪神時代の金本に似ている。 そして、星野監督と球団の経営サイドとの連携も非常にうまくいっているように見える。今季、楽天は、球場を改修して本塁打を増やすためにフェンスを前に出した。この2年で投手陣を整備、「後は打線」と考えてきた星野監督のチーム作りの仕上げが、ホームランの打てる2人の外国人打者の補強だったが、そのビジョン、コンセプトに沿うように、経営者サイドも可能な限りの追い風を吹かせたのである。星野監督が三木谷オーナーを胴上げの輪に誘っていたが、現場と経営者サイドが手を組んで勝ち取った勝利の象徴シーンのようにも思えた。 (文責・掛布雅之/構成・本郷陽一)