北海道和種「どさんこ」を守れ!函館どさんこファーム・池田茂会長【サマースペシャル】
競馬界の旬な話題や馬を取り巻くさまざまなことがらを深掘りする夏競馬企画「サマースペシャル 2024」がスタート。第1回は函館競馬場近くにあるユニークな牧場、函館どさんこファームを紹介する。主に飼育されているのは「どさんこ」と呼ばれる在来馬。減少を続ける貴重な種の保存と、馬文化の継承に情熱を燃やす池田茂会長(70)の取り組みに迫った。(取材構成・山口遥暉) 函館競馬場から車で約15分。タンポポが群生する緑豊かな山沿いに、北海道和種(通称どさんこ)60頭がのんびりと暮らす函館どさんこファームがある。「馬を生業にしよう」と思い立ち、20数年前に牧場を開いた池田会長に話を聞いた。 「華やかなサラブレッドと違って格好は悪い。でも、真面目で、泥臭く地道に業務に努める。それがどさんこの魅力だ」 どさんこは寒さや粗食に強く、北海道開拓に大きく貢献した。しかし、近代化に伴い労働力としての役目を終えると、数を減らしていった。30年前に3000頭を超えていた飼育頭数は現在、約1000頭。幼少期からどさんこに接し、強い愛情も抱いていた池田さんは「このままでは絶滅してしまう。ただ、役割なくして保存もない」と知恵を巡らせた。 そこで思いついたのが、走る馬の上から矢を的にむかって射る流鏑馬(やぶさめ)の競技馬としての活用だ。北海道には流鏑馬の文化がなかったが「流鏑馬の歴史はなくても、どさんこの歴史ならある。競技馬なら活用できる」。大会を主催して魅力を発信していくかたわら、自身も競技者として全国の大会に出場。アジア大会で優勝するまでになった。 守っているのは馬だけではない。大工として培った手先の器用さを生かし、どさんこが物資を運搬する際に使用する駄鞍(だくら)や、ハミも自作。「作れるのは日本で俺だけじゃねえかな」と目を細め「今は保存するのがやっと。何とか若い人に伝えていきたいね」と思いを口にした。 古希を迎えても、情熱は衰えない。現在の目標は、母衣引(ほろひき)用のどさんこを生産することだ。長い筒状の布を掲げて走る母衣引は、古来より伝わる馬術だが、現在は米国のトロッター種が用いられる。「日本の伝統だから、日本馬にこだわってほしい。母衣引に必須な側対歩(※そくたいほ=同じ側の前後の肢が、それぞれ1組ずつ地面に着いたり、離れたりする歩法)はどさんこの得意分野。でも、今のままではスピードが足りないから、どうすればもっと速くなるのか取り組んでいる。それが人生の目標。好きな馬で挑戦できるのは楽しいね」と目を輝かせた。