今の小学生はデザートを食べられない?ロシア・ウクライナ戦争が及ぼす、学校給食への「静かな危機」
学校給食の根本とは何か子どもたちへの食のこだわり
〝静かな危機〟に直面し、さまざまな課題がある中、創意工夫によって学校給食の食材にこだわり、子どもたちに還元する自治体がある。冒頭で紹介した静岡県袋井市の学校給食は、給食センターで調理して各学校に配送する「センター方式」を採用している。袋井市の人口増加や、老朽化の影響から給食センターの建て替えを行い、「調理体制を整えるだけでは終わらせないように」と、袋井市教育委員会おいしい給食課の石塚浩司氏を中心に、地産地消の食材を使用した学校給食を提供してきた。石塚氏は、まず袋井市の学校給食で主に使われる農作物を分析することから始めた。「もともと、袋井市では給食で使えるような農作物があまり作られていなかった。ファーマーズマーケットで販売する小規模農家さんに対して、給食で提供できるような農作物の作付けを依頼していった」。 地道に信頼関係を築き続けたことで口コミが広まり、今では生産者から声を掛けられることもある。生産者との直接取引で価格も抑え、廃棄される不ぞろいな野菜の有効活用も可能になり、学校給食の充実につながった。 チンゲンサイ農家の牧野徳幸さんは、袋井市の学校給食にチンゲンサイを卸しはじめてから、新たに小松菜も作るようになった。「市場への出荷だと段ボール代や手数料、輸送料の負担がある。給食は自分で輸送する手間はあるが、カゴに入れて現物だけを届けることができて資源の無駄がない。地域によって環境も異なるので一概には言えないが、私はとても感謝している」と前を向く。
前出の石塚氏は「私たちは学校給食法にのっとり、栄養価や地産地消などの当たり前の基準を達成しようとしているだけ。まずは子どもたちにとって、今、何が足りていないかを洗い出して課題を解決していくべきだ」と話す。 愛媛県今治市は、約40年前から学校給食に今治市産の農産物などを取り入れ、地産地消を推進する。今治市農林水産課課長補佐の渡部誠也氏は「1980年代に『センター方式』ではなく、給食を各学校で調理する『自校方式』に切り替える動きを契機に、地産地消や食の安全に重点を置いてきた。市内には人数が少ない学校もある中で、『自校方式』や地産地消にこだわる意味は大きい」と話す。 今治市では、愛媛県外産などの農産物の代わりに今治市産の農産物を使用した場合には、その差額を一部負担している。パンの原料は全て今治市産小麦の「せときらら」、お米も100%今治市産の特別栽培米「ひめの凛」や「ヒノヒカリ」を使用しており、子どもたちからも「おいしい」と好評だ。約40年もこの取り組みを継続できた理由に、「今治市食と農のまちづくり条例」の存在がある。今治市教育委員会学校給食課課長の阿部孝文氏はこう語る。「条例があることで、これまでの取り組みを守り続けることができている。全ては子どもに安全でおいしい給食を届けるためだ」。