フランス政治は大混迷も、ルペンにとって2025年は厳しい年に...「壊し屋」の誤算と、腹心の裏切り
<5年間の公職追放処分を科される可能性がある汚職裁判を抱えつつ政府を追い詰めるフランス政治の「壊し屋」──ピークはすでに過ぎたのか?>
フランス大統領への野望が砕ける──。極右政党、国民連合(旧国民戦線)の前党首で実質的な指導者、マリーヌ・ルペンにとって2025年はそんな年になるかもしれない。 【図表】世界の移住したい国人気ランキング、日本は2位、1位は? ルペンは国民連合党員と共に、欧州議会議員当時に受け取った公設秘書給与計450万ユーロを流用した罪に問われている。25年3月末に言い渡される判決次第で、禁錮5年(執行猶予3年)と罰金30万ユーロ、しかも5年間の公職追放処分を科されることになりかねない。そうなれば、27年実施予定の大統領選への(4度目の)立候補は不可能だ。 さらに厄介なことに、ルペンの腹心の部下とされる国民連合のジョルダン・バルデラ党首は先頃、犯罪歴のある人物を党の公職選挙候補者として容認しないと発言した。汚職疑惑一掃に向けた取り組みだが、ルペン追い落としの意図もありそうだ。 ルペンは「座して待つ」ことはせず、政治をかき乱す動きに出た。国民議会(下院)は24年12月4日、右派のミシェル・バルニエ首相率いる少数連立内閣に対する不信任決議案を可決。左派連合の新人民戦線が提出した不信任案が可決したのは、国民連合が支持に回ったおかげだ。 ■マクロンが大統領選を前倒しする可能性はあるか? 24年7月の総選挙の結果、過半数勢力が不在の国民議会は、憲法の規定で25年7月まで解散できない。混迷の中、エマニュエル・マクロン大統領は12月13日、中道のフランソワ・バイル新首相を任命。だが来年度予算案をはじめ、困難な課題が山積みの新政権は安定には程遠い。ルペンは政府・財政・制度・憲法にまたがる4重危機を引き起こした形だ。 ルペンの狙いは、国家的混乱の解決を名目に大統領選の前倒しを迫ることなのか。自身への判決が出る25年3月末より前に実施せよ、と。そのとおりなら、愚かもいいところだ。 現在の危機の責任はマクロンにある。24年6月の欧州議会選で与党連合が国民連合に大敗したことを受けて、マクロンは突然、国民議会の解散・総選挙を決めた。 現状に不満を抱く国民が、不満の元凶と見なす与党を(なぜか)支持してくれるだろうと、これまた愚かな期待を抱いたからだ。マクロンがまたも恥辱を覚悟し、自らの任期を2年間短縮しかねない賭けに出るとは思えない。 24年12月に政府を混乱に陥れたルペンは、既に「新年の目標」を達成し尽くしたのかもしれない。新しい年、ルペンが有罪判決を受け、政治活動を5年間禁じられる可能性は高い。さらにバルデラは明らかに、指導者の座を狙っている。 ■ルペンは25年も制度と民主主義規範の破壊者であり続ける だがフランスでは、この半世紀間に国民の一体感をめぐる不安が徐々に高まっている。背景にあるのはイスラム教徒人口の増加と、グローバル化やテクノロジーの変化が社会・政治・経済にもたらす影響だ。 こうした課題は、ルペン個人の政治キャリアを大きく超越する。国民連合という存在をもだ。その意味で、ルペンは25年も制度や民主主義規範の破壊者であり続けるだろう。 彼女は如才ない。支持者もいる。その影響力は24年がピークだったのかもしれないが。
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA工作員)