阪神史上最大のミステリーを暴く? 1955年、プロ野球経験ない監督で大混乱!村瀬秀信さん『虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督』
【BOOK】 岡田彰布監督のもとで連覇の期待がかかる阪神タイガース。69年前の開幕はプロ野球の経験がない高齢監督の岸一郎だった。わずか33試合の采配でグラウンドから去るもチームに暗い影を落とし続けることになった。そのきっかけをつくった岸の実像に迫った執念の取材は「第21回開高健ノンフィクション賞」の最終候補作に。猛虎史に残る〝最大のミステリー〟を解き明かした村瀬秀信さんに聞く。 【画像】ノンフィクション作家の村瀬秀信の著書「虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督」 ――題材はミステリアスな第8代監督・岸一郎 「以前、大洋ホエールズ~横浜ベイスターズの歴史について『4522敗の記憶』という本を書いたんですが、そのときにタイガースという球団の特異性、ファンの愛情の深さを見ても他球団とは違うと感じたのが始まり。監督列伝のような原稿をスポーツ雑誌で書くことになり、岸一郎なる人物を見つけるのですが、『監督経験者なのになぜ情報がないのだろう』と気にかかりました。調べていくうちに大和球士さんという昔のスポーツライターが著書で、タイガースの〝お家騒動〟の発火点は1955年の岸退陣事件にあると指摘。これは何か裏があると感じました」 「しかし、岸に関する現存する資料は乏しく、<福井県敦賀市出身。プロ野球経験なし、就任当時60歳>。オーナーに『自分ならタイガースを勝たせてみせる』と売り込みの手紙を送って、本当に採用されてしまった…ぐらいのもの。どこまで追求できるか一抹の不安はあったものの10年前から取材をはじめ、関係者を一人ずつあたり、早稲田大学や満鉄(南満洲鉄道)の資料、新聞などすべてに目を通しました。一番難しかったのは複雑怪奇なタイガースの歴史をたどっていくこと。あらゆる視点と思惑が入り乱れ、正解を導くことが非常に難しい。さらに熱狂的なタイガースファンの方は僕なんかより全然歴史に詳しいですからね。間違いのないよう識者を頼りに慎重に進めました」 ――熱狂的な野球の原点は 「この本では54年7月の対中日戦。ダイナマイト打線の不動の4番、藤村富美男の退場で大いに揉めた〝大阪球場事件〟のことを書きましたが、タイガースの野球の原点となるものがミスタータイガース・藤村(富美男)の存在でしょう。彼は〝選手王様気質〟という伝統をチームに植え付けますが、ファンが熱狂する野球を追求し、定着させた功績は大きかったと思います。そのアンチテーゼ的存在が、岸一郎です」