メトロポリタン美術館の24年ファッション展は、感覚を通して呼び覚ます“眠れる美” 50枚の写真と共に見どころ紹介
例えば、「『ディオール』の庭」の部屋では、2013年にラフ・シモンズ(Raf Simons)が同ブランドのために制作したドレスの刺しゅうを3Dプリントのプラスチックで再現した壁に触れることが可能。「赤いバラ」や「バラの亡霊」の部屋では、展示作品のそばにある透明なチューブに顔を近づけたり、香り付きの特殊なペンキが塗られた壁をこすったりすることで、分子レベルで抽出された歴史の匂いを嗅ぐことができる。また、「貝殻」の部屋では「アレキサンダー・マックイーン」のマテ貝の貝殻を使ったドレスの展示と合わせて、それを着て動くときに実際に鳴る音を聞くことができたり、「ヒナゲシ」の部屋では第一次世界大戦の兵士たちを称えたジョン・マクレー(John McRae)の詩「フランダースの野に」の俳優のモーガン・スペクター(Morgan Spector)による朗読を聞けたり(※編集部注:赤いヒナゲシは主にイギリス連邦の国々で戦没者の象徴とされている)。それだけでなく、CGIやデジタルアバター、プロジェクション、サウンドスケープ、視覚トリックなどを用いた展示や、ChatGPTを活用することで展示作品の元の所有者と交流できる仕掛けなどもある。
“感覚を通して、衣服を呼び覚ます”
「ファッションに対して、感覚的でエモーショナルなアプローチで進めていくというアイデアを気に入っている」というアンドリュー・ボルトン(Andrew Bolton)=チーフ・キュレーターは、同展の前提について「実際に嗅いだり、触れたり、聞いたり、そしてもちろん見たりという感覚を通して、コスチューム・インスティテュートが所蔵する3万3000点に及ぶコレクションから選ばれた衣服を呼び覚ますこと」と説明。「ミュージアムに展示される衣服は、触ることも、香りを嗅ぐことも、音を聞くことも、着ることもできないので、視覚に頼らないといけない。ファッションは生きた芸術であり、それを活性化させるには体が重要だ。ファッションが求めているのは、触れられること。壁に飾られ、ただ見られるだけの絵画とは違い、それが多くの感覚を浮かび上がらせる」と続ける。
また、自然は「ファッションの究極のメタファー」であり、再生と復活のメッセージを伝えるものであると表現する彼は、「エシカルかつサステナブルな活動に深く取り組んでいるデザイナーと関わり、彼らから作品を入手するために、この機会を活用したかった」とコメント。その一例として、会場には若手デザイナーのコナー・アイヴス(Conner Ives)が、デッドストック生地と再生PET製スパンコールで制作した20年の卒業コレクションのドレスや、フィリップ・リム(Phillip Lim)の竹と海藻由来のメッシュとバイオプラスチックのパーツを用いたドレスも展示されている。