なぜ知識や能力が足りない人ほど「馬鹿の山」に登りたがるのか
「ホワイト過ぎる職場に、成長の機会を奪われると感じて辞めてしまう」――若者の退職を招く新たな問題に、「厳しくしても優しくしてもダメなら、いったいどうすればいいんだ!」と頭を抱える担当者は多い。本連載は、今どきの若者とどう関わるのが正解か、20年近く企業の組織改革に携わってきた経営コンサルタントが、11の具体的シーンで解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません――マネジャーの心の負担を減らす11のルール』(横山信弘著/東洋経済新報社)から内容の一部を抜粋、編集。 ダニング・クルーガー効果(知識や能力が足りない人ほど自信過剰になる)の曲線 第5回目は、部下がちょっと実績を出して自信過剰になる「認知バイアス」の典型例を紹介。適切な戒め方を解説する。 ■ 「ドンマイ、ドンマイ」と言ってはならないとき 部下の問題で落ち込んでいる場合はどうしたらいいか。 まず、「励ます」という選択肢はない。部下自身の問題だから、 「ドンマイ、ドンマイ」 だなんて言ってはならない。だからといって、 「どうして失敗したか、君は本当にわかっているのか?」 などと追い打ちをかけるように叱咤してはならない。酷い「追体験」をさせてしまう。部下が自分の落ち度だと理解しているのなら、見守るだけでいい。 問題は、なぜうまくいかなかったのか、どうして成果を挙げられなかったのか、正しく理解していないときだ。 「自分はやれるだけのことはやった。ここまでやってもダメならしょうがない」 と部下が思っているのならスルーできない。 なぜうまくいかなかったのか。キチンと伝える必要がある。これは教育の領域だ。薫陶ではない。ちゃんと覚えてもらわないといけないことなので、時間を使って丁寧に伝えていこう。 そんなときに便利なフレームワークを紹介する。それが「ダニング・クルーガー効果曲線」である。
■ 10年早く知りたかった「ダニング・クルーガー効果曲線」 この曲線を知ったとき、私は正直なところ 「10年早く知っていたら、自分の人生はもっと豊かになっただろう」 と思った。それほど衝撃を受けたフレームワークだ。上司が部下の市場価値を高めるうえで、絶対に知っておくべき概念である。 そもそも、ダニング・クルーガー効果とは何なのか? まず、この心理効果について解説しよう。 ダニング・クルーガー効果とは、能力や経験の低い人ほど自信過剰になる認知バイアスのことだ。「優越の錯覚」とも呼ぶ。 20年近くコンサルタントの仕事をしていて、この心理現象は常に目の当たりにする。アマチュアであればあるほど学習や鍛錬を怠り、プロであればあるほど謙虚に自分磨きを続けるものだ。 だからまだ未熟なのにもかかわらず、部下自身が、 「今回はうまくいかなかったが、自分のせいではない」 と思い込んでいるのなら、ダニング・クルーガー効果が働いているかもしれない。まだ実力が足りていないことを自覚できていないからだ。 自分に対して 「気にするな。ドンマイ、ドンマイ」 と言って気持ちを切り替えようとしているのなら、上司は指摘すべきだろう。 「うまくいかなかったのは、勉強不足だったからだ」 「もっとスキルを上げないと、同じことを繰り返すぞ」 と戒めなければならない。 実力不足の人は、どこまでの力を身につけたら十分なのかを正しく認識できない。たまたまビギナーズラックに恵まれると、 「ひょっとして才能があるかも」 と天狗になってしまう若者もいる。天狗になって伸びた鼻をへし折るのは、おすすめしない。とはいえ、自分の力を過信しないようには注意すべきだ。そうでないと、部下の成長を阻害してしまうからだ。 さらに理解を深めてもらうために、次節以降はダニング・クルーガー効果を曲線で表現した図を使って解説していく。