充電タイムも重要…モーリタニアでの「灼熱地獄でのフィールドワーク」の過酷な様相
「新書大賞2018」を受賞し、累計25万部(電子版を含む)を突破した『バッタを倒しにアフリカへ』の続編『バッタを倒すぜ アフリカで』(前野 ウルド 浩太郎著・4月17日発売・光文社新書)が刊行されました。前作では触れられなかった「世界初」の研究内容をふんだんに盛り込んだ、608ページに及ぶ大著です。本記事では本書の第1章より、世界初の発見につながった、モーリタニアでのフィールドワークの様子を紹介します。 【マンガ】19歳理系大学生が「フィールドワーク中」に死にかけた「ヤバすぎる体験」 ※本記事は前野 ウルド 浩太郎著『バッタを倒すぜ アフリカで』から抜粋・編集したものです。
充電タイム
モーリタニア滞在中、ひたすら野宿していると誤解されることがあるが、そこまで野生児ではない。野外調査以外のときは、首都ヌアクショットにあるモーリタニア国立サバクトビバッタ防除センターのゲストハウスで待機している。 2011年4月にできたての一室をお借りして以来、あれよあれよと言う間に物が増え、日本に帰る度にお持ち帰りするわけにもいかず、置きっぱなしでずっとお借りしている状態になっていた。研究に必要な物資を日本からせっせと運び込み、もはや男の隠れ家だ。8畳ほどの広さに机、作業台、ベッド、棚を配備し、一部屋でリビング、寝室、実験室、居室、文献整理室等、色々な顔を持つ。 シャワーとトイレが隣接しているが、間のトビラがシロアリに食われてしまったため、新しいものに交換した。窓から侵入してくる砂ボコリがすさまじいため、窓枠にはビニールテープを貼っている。電気機器等もビニール袋で保護しているが、半年ぶりに部屋に戻るとホコリが積もっており、滞在中、どれだけホコリを吸っているのかゾッとする。 実際、会話が困難なレベルで咳が止まらなくなる奇病に数回かかり、ホコリ対策には気を使っている。夜、懐中電灯を空にかざすと、光の道筋がくっきり見える。砂ボコリが常に舞っているためだ。呼吸する度にこれを吸い込んでいたら具合も悪くなるよなぁ。 野外調査翌日は、休養日にしたいところだが、あれこれ作業が待ち受けている。電気機器類のバッテリーの充電、写真データのバックアップ等々。カメラからSDカードを引っ張り出しては、データをコピーする。容量がなくなりそうだったら、新しいカードに替える必要がある。以前、コピーする前にカードのデータを消してしまったことがあり、それ以降はカードのデータを消して使い回すのではなく、カードそのものを保存するようにした。 そして、留守中の一番の懸念事項である溜まりに溜まったメールに返信していく。「明日までに返信ください」というすでに手遅れになっているメールが数日前に来ていることがよくある。 野外調査中は毎日着替えることはない。昼に着るTシャツと寝るときに着るTシャツを替えるだけだ。荷物を減らすコツであり、調査がうまくいくようにという願掛けのようなものでもある。このTシャツを洗濯すると、水がカフェオレみたいな色になる。小汚いことこの上なし。 砂だらけになった物資の掃除、使った分のガソリンや食料などの調達も必要だ。これらはティジャニにお任せする。調査から戻った翌日、ティジャニとは朝飯だけ一緒に食べて、ゆっくり休んでもらう。ただ、車の修理など、業者に依頼が必要なややこしい作業だけお願いする。 私は、常に何らかの作業に追われていて、気持ちのオンオフの区切りがはっきりしない。ただ、野外調査をこなす度に感覚が研ぎ澄まされ、頭の回転が速くなっていくのがわかる。そのせいなのか、快眠できなくなり、数時間おきに目が覚め、気が休まらない。 事務作業中は、体力は回復するが、眼精疲労が深刻化する。一方、野外調査中は、体力は消耗するが目の疲れがとれる。すなわち、事務作業と野外調査を交互に行うことで回復と消耗のバランスがとれ、常に過労状態を保つことができる。おまけに異国にいる孤独感を相殺できる。