樋口恵子 ピンピンコロリが理想でも、現実はそう簡単にいかない…ドタリと倒れてから「さてどうやって生き延びるか」こそが大きな課題
平均寿命が伸びる一方で、長生きによる「老い」に直面する場面も増えています。以前と違う自分に戸惑ったり、忘れてしまうことに恐怖を感じている方もいらっしゃることでしょう。91歳になった今でも執筆活動を続けている、評論家・東京家政大学名誉教授の樋口恵子さんは<老いのトップランナー>として、「自分の老いを実況中継しながら、皆さんにお伝えしてご一緒に考えていきたい」と話します。その樋口さんいわく、「数のうえからいうと、ヨタヘロ期を長く過ごすのは圧倒的に女性が多い」そうで――。 【写真】「自立して日常生活を送れる健康寿命の割合は、女性よりも男性のほうが長い」と話す樋口さん * * * * * * * ◆ヨタヘロ期 私が理事長を務める「高齢社会をよくする女性の会」の広島代表で、社会学者の春日キスヨさんが、「ピンピンしている元気な時期の後に、半分自立しているヨタヨタヘロヘロの時期があり、その後にドタリと倒れて寝たきりになる」とおっしゃいました。 まさにヨタヨタヘロヘロになりつつあった私は「これだ!」と思い、「ヨタヘロ期」と名づけて、あちこちでお話ししたり書いたりしているわけです。 名付けの親は春日キスヨさんですのでここに明記いたします。 その反響から春日さんが感じるのは、皆さん、ピンピンコロリ願望が強すぎるということ。
◆実際にピンピンコロリで亡くなる人は1割ほど 長く終末期介護のサポートをしている春日さんから聞いた話では、「ドタリと倒れてから半年くらいをピンピンコロリとするならば、実際にピンピンコロリで亡くなる人は1割ほど」とのことでした。 つまり、多くの人はドタリと倒れた後、数カ月から年単位で寝込むことになるのです。 そして、自立して日常生活を送れる健康寿命の割合は、女性よりも男性のほうが長い。 介護保険の利用理由を見てみると、女性は骨折、転倒、骨粗しょう症、この3つの事故・疾病だけで全体の3割を占めます。
◆ヨタヘロ期を長く過ごすのは圧倒的に女性 要するに運動機能の問題です。 一方、男性はというと、全体の3割を占めるのが心臓病、脳血管症。心臓および循環器系の病気です。 言ってしまえば、男性のほうが死にやすいということ。女性のほうは、骨折したってずっと生きているわけです。 もちろん男性にもヨタヘロしながらでも元気に長く生きてほしいと思いますが、数のうえからいうと、ヨタヘロ期を長く過ごすのは圧倒的に女性です。
◆ピンピンコロリは幻想 だからこそ、ヨタであろうとヘロであろうと、なけなしの身体的能力を振り絞ってでも運動の習慣をもったほうがいいと思います。 家の中を動ける、自分が行きたいときにトイレに行ける、それはヨタヘロ期を過ごすうえでとっても大事なことです。 ピンピンコロリは確かに理想的ですが、現実はそう簡単にはいきません。 ドタリと倒れてから、さてどうやって生き延びるか。 私にとって、そしてこれからの社会にとっても大きな課題です。 ※本稿は、『老いの地平線 91歳 自信をもってボケてます』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
樋口恵子
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