東京学芸大「学校で働く人材を育成」社会人も歓迎 教員・教育支援人材育成リカレント事業とは
社会と学校を多様な大人が行き来する「流動性循環」を
松田氏の話から、現場もこの事業を前向きに受け止めていることがわかる。しかしそうした心情に反して、スピード感を持って入職を進めることは、実際には難しい。臨時免許がスムーズに発行されるかどうかは自治体による差も大きく、結局は新たな人材を採用できるかどうかは「今持っている資格」に左右される。松田氏は、現状の教員の「順序性」にも改善すべき点があると指摘する。 「通常はまず正規の教員で回しながら不足があれば非常勤を加え、それでも足りないときに臨時免許の先生を……という優先順位があります。しかしこれでは、英語や探究学習など、新たな学びが増える現場のニーズに柔軟に応えることができません」 こうした点も改善すべく、松田氏は各自治体との協議を進めている。例えば臨時免許は、非常勤の教員に対しては比較的交付されやすい。これを活用し、企業側の協力も得ながら、非常勤のダブルワーク教員として働いてもらうことはできないか。副業・兼業は2018年に政府がガイドラインを改定して促進しているが、なかなか社会に浸透しないのが実情だ。学校が変わるためには、社会がともに変容していく必要があるだろう。 そもそも教員も「一人の社会人」であるはずだが、現状では、教員になって学校に入ると、何となく社会から切り離されるような空気がある。松田氏はこうした教員のあり方を変え、社会と学校の「流動性と循環」を生んでいくべきだと考えている。 「教育に対して強い理念を持っている社会人は多いと感じています。多くの大人は、日々の時間や生活をともにする中で、子どもたちに伝えられることをたくさん持っているはず。教科の学習はもちろん大切ですが、そうした多様な大人と接することも、子どもたちにとって重要な学びになる。学校で働く大人はもっとフレキシブルに、社会と学校を行き来できてもいいのではないでしょうか」 どう仕組みを変えていくか、財源はどうするか、どう理解を得ていくか。課題は決して少なくないが、期待を込めた模索が続く。 (文:鈴木絢子、写真:東京学芸大学提供)
東洋経済education × ICT編集部