これぞ宮藤官九郎の社会派コメディの原点ともいうべき、映画「ゆとりですがなにか インターナショナル」
熱いメッセージも笑いを交えて積極臭さなしに伝える宮藤脚本
宮藤官九郎作品の魅力は、愛すべき多彩なキャラクターたちの群像劇と、予想できない展開を交えて綴られる喜怒哀楽のすべてが詰まった巧みな構成の笑って泣ける物語。熱いメッセージも笑いを交えて積極臭くなく伝える宮藤脚本の上手さは、宮藤が初めて本格的に社会問題を取り入れて書いたこのシリーズでも存分に発揮されており、『ゆとりですがなにか』なくして『不適切にもほどがある』は生まれなかったかもしれない。今回の映画版も、Z世代、働き方改革、コンプライアンス、テレワーク、待機児童、動画配信、多様性、LGBTQ、グローバル化といった、現代社会を反映した物語となっている。 様々な要素を主人公三人や坂間家の家族の物語にてんこ盛りに詰め込みながら、濃密な116分の一本の映画として上手く仕上げることに成功しているのは、脚本の力はもちろんだが、絶妙なアンサンブルを見せる芸達者なキャストたちが揃ったことに加え、コメディにもシリアスにも長け、宮藤とはドラマでも映画でも長年組んでその魅力を知り尽くした水田伸生が監督を務めているからこそ。まさにこのスタッフとキャストでしか作れない作品で、特にクライマックスで坂間家の茶の間に、岡田、松坂、安藤、仲野、島崎遥香、髙橋洋、青木さやか、佐津川愛美、長村航希、吉原光夫、中田喜子という様々な世代のキャストが揃うシーンは必見。狭い茶の間で大勢が揃い、ドタバタの会話劇が回想シーンも交えて展開する複雑な構成ながら、宮藤の脚本、水田の演出、俳優陣の芝居が見事にかみ合って、面白さを損なわずにわかりやすく見せている。 爆笑しながらも、現代社会の生きづらさを考えさせられたり、家族愛に感動したりという、心を揺さぶるエンタメ要素満載の本作。とにかく魅力的なキャラクターばかりなので、結局のところは難しいことを考えず、ただただ主役3人とその家族や周囲の人々の様子をずっと見守り続けたいと思わせられる、愛すべき人間ドラマとなっている。 3月27日にリリースされたBlu-rayの豪華版には、スペシャルフォトブックレットが封入される他、総計約90分の特典映像も収録。スペシャルメイキングでは撮影現場の様子と共に、メインキャストたちのコメントも収録。完成披露舞台挨拶や初日舞台挨拶などのイベント映像集も収められている。それらの特典映像で特に印象的なのは、やはり岡田、松坂、柳楽の仲の良さ。ドラマ版が始まる時に柳楽が声をかけて三人で京都旅行に行ったことを振り返ったり、そこから友人として関係を深めてきたので、岡田が「6年ぶりの共演でも撮影現場に友達がいると思うと安心感があった」と明かしたり、松坂が「全く飽きないご褒美みたいな特別な現場」「また2年後くらいにやりたい」などと語ったり、柳楽が自身のターニングポイントのような作品に時を経てまた参加できていることの喜びを述べたりしている。三人共に定期的に演じ続けたい役だと思っていることや、キャスト陣全員がこの作品を愛していることも伝わってくるコメントが満載なので、続編への期待を高めてくれることだろう。 文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社
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