認知症高齢者ら支援「市民後見人」5年で倍増 青森県内 活動の女性「生活の張り合いとなった」
成年後見制度の研修を受けた市民が、認知症高齢者らの後見業務を行う「市民後見人」が青森県内で徐々に増えている。4月現在、県内で活動しているのは40人で5年間で約2倍に増えた。地域別では弘前圏域8市町村が30人と多い。関係者は「弘前圏域は、研修や支援に力を入れているので後見人が活動しやすくなっている」と説明し「認知症が増える中、被後見人と同じ目線で支援できる市民後見人の活動に期待がかかる」と語る。 市民後見人は、家庭裁判所から成年後見人として選任された一般市民。弁護士や司法書士などの専門職後見人とは異なり、特別な資格は必要ないが、養成研修を受講するなど一定の知識を有することが望まれる。 県によると、市民後見人として活動している人(受任者)は2020年が22人(4月現在)だったが、24年は40人(同)となった。市民後見人として登録した人も、20年の147人(4月現在)から190人(同)に増えている。 今年4月現在、活動中の市民後見人40人の主な地域別内訳は、弘前市20人、青森市2人、八戸市4人。弘前と周辺市町村(黒石、平川、藤崎、板柳、大鰐、田舎館、西目屋)を合わせた弘前圏域では30人に上る。 弘前圏域8市町村は20年4月に「弘前圏域権利擁護支援センター」(弘前市ヒロロ内)を開設し、市民後見人養成研修を隔年で実施。これまで47人が研修を修了した。本年度も10人が受講している。活動中の市民後見人に対する助言やフォローアップも行っている。 県高齢福祉保険課の担当者は「弘前圏域は比較的、市町村間での連携が強い傾向があると思われる。成年後見制度についても、市民後見人の養成やフォローアップを含め、他圏域に先駆けて、広域的な体制の構築や取り組みが進められている」との見方を示した。 同センターの藤田博美相談員は「認知症などで判断能力が十分でない人も安心して暮らせるようにするためにも、市民後見人の存在は非常に心強い。各地域で広がってほしい」と話した。 県によると、県内では弘前圏域のほか、青森市や八戸市、むつ市、十和田市などでも市民後見人養成研修を行っている。 ▼人に必要とされやりがい/3年間活動の野呂さん(黒石) 成年後見制度の「市民後見人」が県内で増える中、活動のやりがいを口にする人は少なくない。黒石市の野呂由美子さん(68)は9月末まで、県内に住む女性の市民後見人として金銭管理などの支援に当たった。女性の最期まで寄り添えたことに「孤立気味だった女性を支援できて良かった。後見人活動が、生活の張り合いとなった」と述べた。 弘前市内の精神科病院に看護師として勤めていた野呂さんは「定年後、社会の役に立ちたい」と2020年から、弘前圏域権利擁護支援センターの市民後見人養成研修を受講した。 市民後見人として登録した後、21年11月、家庭裁判所の選任を受け活動を開始。担当することになった女性は、認知症のためお金の管理ができず、言葉も発せられずにいた。 野呂さんは、女性が入居する施設に足を運び、女性の預金通帳を見せながら、お金の出入りの状況を説明。女性が好きなブラックコーヒーなどを差し入れ、話しかけたりした。ただ、認知症が進んでいた女性はほとんど反応を示すことはなかった。 昨年秋、病状悪化で女性が入院。野呂さんが週1回、見舞いに行くようになると、女性は待っていたかのように顔をじっと見つめていた。 今年9月末、女性は亡くなる直前、何か言葉を発しようとして、息を引き取った。死後の手続きは後見人の業務ではないものの、野呂さんも手伝った。 約3年間の活動を振り返り野呂さんは「自分が必要とされると、生きがいを感じる。(女性が)生活の張り合いを与えてくれたことに感謝している」と語った。最期に何かを言おうとした女性の表情が今でも忘れられないという。 ◇ 成年後見制度 認知症や知的・精神障害などで判断能力が十分ではない人を弁護士や司法書士、福祉関係者、親族らが後見人となって支援する制度。2000年に導入された。後見人は本人に代わって預貯金の管理や福祉サービスの利用手続きをしたり、契約を取り消したりできる包括的な代理権があり、日常生活の見守りを担うこともある。本人や家族らが利用を申し立て、家裁が後見人を選定する。市民後見人は、弁護士や司法書士などの資格をもたない、親族以外の市民による成年後見人。市町村などの支援を受けて後見業務を担う。