東京で唯一二ツ星に輝くイタリアン。天才肌のシェフは「僕、料理がヘタくそなんですよ」
おいしいことはもちろん、そこで過ごすひとときは幸福に彩られることが約束されている場所。ベテランのフードジャーナリストが今、改めて考える"名店"をシーン別に厳選紹介する。今回は、東京で唯一、二ツ星に輝くイタリア料理店「プリズマ」を紹介する 【写真】プリズマの「丸茄子とパプリカのテリーヌと秋刀魚のタルタル」
不断の努力を重ね、進化しつづけるシェフ渾身の"今" を味わう「プリズマ」
「丸茄子とパプリカのテリーヌと秋刀魚のタルタル」。蒸し煮にしたパプリカに香味野菜やトマトソースを加えて完熟野菜のうまみを表現したムースを、蒸し焼きにしたなすと重ねてテリーヌに。野菜のまろやかな風味を、脂ののったサンマと味わう。奥深く重層的な味に引き込まれた。 プレゼンテーションはシックでモダン。奇をてらった味はひとつもない。クラシックに忠実なのに独創性にあふれている。 店は、青山の表通りから少し入った閑静な場所に佇む。壁一面ガラスの開放的な空間の奥に、広々としたオープンキッチン。厨房に立つのは斎藤智史(ともふみ)シェフひとり。仕込みをし、料理はもちろんデザートやパンまで手がけ、掃除もする。音楽を選び、花もシェフが生ける。接客はマダム・典子さんの担当。 「毎日、やりたいことがあふれてくるんです。ひとりなので自由にできる半面、あれもこれもとやってしまう」。自分が手をかけないものは出したくない。そんな気持ちが高じて、キャビアまで手作りしている。 ひとりで厨房に立つと決めて、週4日、ディナーのみの営業にした。残りの3日間は仕込みにあてる。営業日は朝4時50分に家を出て、豊洲市場へ。店をあとにするのは夜23時を過ぎる。 現在、ミシュランガイド東京にて、イタリア料理店では唯一の二ツ星を獲得。天才肌と呼ばれるシェフだが、「僕、料理がヘタくそなんですよ。ヘタはヘタなりに努力して頑張らないと」。 ガイドブックの評価より、客の「おいしかった」のひと言がうれしいと言う。毎日の努力の結果は、満席の客の笑顔に表れている。
「ピレネー産乳飲み仔羊のアッロスト」。仔羊はストウブで表面を焼き、遠赤外線でさらに焼く。添える野菜類は蒸し焼きに