【ふくしま創生】挑戦者の流儀 HANERU葛尾(福島県葛尾村)社長・松延紀至(下) 増産目指し技術高める
HANERU(はねる)葛尾が陸上養殖で手がけたバナメイエビは地元・葛尾村を中心に多くの人に親しまれるようになった。一般流通を前に昨年から葛尾幼稚園や葛尾小・中の給食で提供している他、村内外のイベントで振る舞っている。7月上旬には福島県須賀川市のすし店に提供し、東京都内でのイベントでバナメイエビを使ったメニューが販売された。味への反応は上々だ。「おいしく味わってもらえてうれしい。さまざまな人の支えがあって今がある」。社長の松延紀至(50)はしみじみと語る。 順調に成果が上がっていることから松延は飼育規模の拡大を決断し今年2月、養殖施設を3棟増やして計5棟にした。これまでは二つの飼育用水槽を使い4カ月間で約6千匹を出荷していた。新たな施設の完成により飼育用の水槽は計11槽になり、4カ月間で約6万~7万匹を出荷できる体制となった。 ただ、松延は「商業ベースに乗せるにはまだ不十分」と冷静に分析する。現状は1槽当たり年4回、それぞれ4500匹前後の出荷が可能だが、目標とする年間約15万~20万匹の出荷には、途中で死んでしまうエビの数も考慮し1槽当たり年4回、それぞれ5400匹前後にする必要があるという。 出荷量を増やすため、今も塩分濃度や水槽に入れる稚エビの量などを調整して試行錯誤を重ねている。適切な餌の量や頻度を探り、成長を早められないか試している。「いかに効率よく飼育していくか、検証していかなければならない」。飼育技術はまだ発展途上にあると強調する。 来年4月から広く販売するのを目標にしている。残り約8カ月。効果的な販売の方法を見いだすことも課題だ。イベントでの直接販売の他、飲食店への出荷などを想定している。体長15センチ、重さ20グラムほどのエビを1匹150円程度で売れれば、採算が取れると見込んでいる。「多くの人にエビが愛され、地域に産業を生み出すにはどのような方法が良いのか」。検討課題は尽きない。 従業員が経験を積んで技術を身に付ければ、他の地域での事業拡大も可能になるとみる。陸上養殖を始めた理由の根幹にある「水道インフラを維持管理する技術者の育成」にもつながる。配管の接続や水質のデータ分析など、養殖と上下水道を管理する技術は共通しているため、地域活性化や業界の発展に貢献できると考えている。 「浜通りをはじめ、県内にどんどん拠点を広げていきたい。エビで被災地を活性化させる」。社名の「HANERU」は相馬地方の方言で「走る・駆ける」の意味。文字通り、今後も飛躍を遂げていく。(文中敬称略)