山や海岸をキャンバスに驚愕の超巨大アートを生み出すランドアーティストたち 生分解性の絵具でサステナブルな活動
絵が秘境の自然に融合する、デイヴィッド・ポパ
ニューヨーク市で生まれ育ったデイヴィッド・ポパ(David Popa)は、人気急上昇中のランドアーティストだ。21歳でフィンランドに移住し、妻と子どもたちと同国を拠点にしている。デイヴィッドは主に北欧で人があまり訪れない自然の地を探し続け、人物や動物を描いている。秘境の岩や氷の表面が彼の絵に独特な効果を与え、毎回、幻想的な作品が生まれる。絵具は、土、貝殻、木炭などの天然素材で作っている。地面に目印は付けない。ドローンからとらえた動画を手元で見ながら描き進めていく。 最新のプロジェクト「Transcendence」では、生命のサイクルを表現することをコンセプトに、米ユタ州の砂漠で4枚の壁画を制作した。これまでで最大の作品になった。 アクセスしにくい場所を求めるのは湧き上がる冒険心から。また、そこの風景に宿る強いエネルギーを1人でも多くの人とシェアしたいからだという。大自然の生命感は、絵を描くことによって強調されると考えている。先史時代に洞窟に絵を描いていた人たちのように、現代人も、人間と自然とのつながりを身近に感じてほしいという。 <フィンランドの森での体験がランドアートへ> デイヴィッドの最初の絵の師は、ストリートアートを牽引してきたプロのアーティストの父。デイヴィッドは高校でも大学でも美術(ファインアート)を学び、ストリートアートにも強い関心をもっていた。大学在学中に、壁画を合法的に描くことができるヘルシンキに滞在し、いたる所で壁に描いた。デイヴィッドはプロのストリートアーティストになろうと決心し、大学を卒業してフィンランドに渡ったことが人生の転機となった。そして、絵の注文を受けたり、ストリートアートのフェスティバルに招待されたりと少しずつキャリアを積み上げいった。 自然を舞台に描き始めたのは、緑あふれるフィンランドという土地が導いてくれた。ある日、森の中の木と木の間に巨大で透明なプラスチックのシートを張り、顔を描いてみた。自分のアートを違う方法で表現できるのではないかと衝撃が走り、その写真を国内のメディアに送ったところ、大々的に報じられたという。その経験が、自然界のエレメントに直接描いてみるという挑戦につながった。2020年に、岩場に妻の顔を描いた最初の大型作品「Ephemeral」を撮影してネット販売したら、瞬く間に100枚以上が売れた。 デイヴィッドは彼独自のアートスタイルによって、日常生活で奇跡的なことが起きるということも伝えようとしている。「新作に取り組むたびに、前作ほどよいものはできないかもと迷う気持ちも浮かびます。そういった葛藤があってもやるのです。自分の中に眠っている力が大自然の空間で引き出されると信じて。その前向きな姿勢が、思いがけない結果を運んでくれると思っています」という彼の言葉には、勇気をもらえる。 2人のドローイングなどの作品は、それぞれのサイトから購入することができる。