海外に出る前に知っておきたい「日本のキホン」─「アイヌとはどのような民族ですか?」
いまこそ、アイヌを知るべき
その後15世紀頃になると、和人の商人集団が道南に進出し、アイヌと本土の交易を一元的に管理するようになります。アイヌの自律的で活力に満ちた時代は、これによって大きく変容しました。さらに、反発するアイヌとの戦いや和人商人の覇権争いに勝ち残った蠣崎氏(かきざきし)が徳川家康からアイヌ交易の独占を保証されて松前藩が成立、アイヌは和人の経済体制に深く組みこまれていくことになります。 明治時代になると、国家による直接的な支配と同化政策が進み、アイヌはときに自己のアイデンティティを隠し、言語や伝統的な生活様式を捨てなければなりませんでした。アイヌがさまざまな富を生みだしていた北海道の大地は、本土による一方的な収奪の場となり、各地に残るかつての産炭地のように、現在では棄て去られ荒廃した自然だけが残されています。 「自然豊かな北海道」というキャッチフレーズは、アイヌだけでなく国策に翻弄されてきた北海道の人々の思いとは決して重なりません。 アイヌは一貫して隣接する本土と交流し、その文化を自分たちなりに吸収してきました。北海道は常に中心である本土に従属してきたと思われるかもしれませんが、それは本土の一方的な見方にすぎません。北海道が真に豊かな世界として再生するためにも、本土とは異なるこの大地によく適応し、1万年以上も固有の暮らしと文化を築いてきた人々について、いまこそ知るべきではないでしょうか。 瀬川さんがお勧めする「アイヌ民族をよく知るための一冊」 アイヌ語研究の第一人者によるアイヌの神観念や物語世界、アイヌ語などの充実した解説。独自で奥深いアイヌの精神世界に触れてみたい。
Takuro Segawa