名将ムラトグルが男子トップを独自の視点で評価「アルカラスが最高のテニスをする時はシナーよりも優れている」<SMASH>
今季の男子テニスはヤニック・シナー(イタリア/世界ランク1位/23歳)とカルロス・アルカラス(スペイン/同3位/21歳)の2人の若武者が主役となった。シナーは全豪と全米、アルカラスは全仏とウインブルドンを制し、最高峰の四大大会で2度ずつ優勝を分け合った。 【連続写真】タメを作ってダウンザラインに叩いたアルカラスのフォアハンド「30コマの超連続写真」 ただしシーズンを通してのタイトル数はシナーが8に対し、アルカラスは4。また通算成績も試合数の違いこそあるものの、前者は73勝6敗、後者は54勝13敗。勝率でもシナーがアルカラスの80%を上回る92%という驚異的な数字を残した。さらにシナーは男女を通じてイタリア人選手初となる年間1位と2000年代生まれの選手として初のATPファイナルズ優勝も達成した。 ジュニア時代からライバルとして切磋琢磨し、何かと周りから比較されてきた両者。最近の抜群の安定感や上記の記録などを見ると、シナーがアルカラスを上回っていると思う人は多いだろう。だが違った見方もある。 というのも2人は今年だけで3度顔を合わせているが、全てアルカラスに軍配が上がり、通算対戦成績も現在までアルカラスが6勝4敗とリードしているのだ。彼らの年齢を踏まえるとどちらが強いかを比べるのはまだ早いかもしれないが、今年9月末に大坂なおみのコーチに就任した名将パトリック・ムラトグル氏(フランス/54歳)は、現時点では直接対決での勝利数が多いアルカラスがシナーよりも優れていると考えている。 海外メディア『Tennis 365』の取材で同氏は2人の試合の特徴を挙げつつ、次のように意見を述べた。 「これまでカルロスがヤニックに勝つことが多かったのは、主にカルロスがコートでより多くのものを生み出せるからだ。カルロスには特別な力があり、プレーの面でヤニックと互角に戦える。 ここ数カ月間、アルカラスはかなりの数のミスを犯しているのに対し、シナーはそれが少ない。そのため、彼らの試合には多くのアップダウンがあり、状況が頻繁に変化する。ある時点では片方がリードしていても、突然もう一方が流れをつかみ、試合を支配するようになる。ただ、アルカラスが最高のテニスを見せる時はシナーよりも優れていると思う」 一方でムラトグル氏は、21世紀で“ビッグ3”(ジョコビッチ、ナダル、フェデラー)に次ぐ史上4人目のシーズン勝率90%以上を記録したシナーが特別な選手であることに変わりはないと主張する。 「試合を通して最高のテニスはできないものだが、シナーはずっと安定している。だからこそ2人の試合はますます接戦になっているわけだ。シナーはどこからでもウイナーを取れるから、相手に不安を抱かせる。決して気を抜くことができないし、常に危険にさらされているような感覚にさせられ、ゲームを組み立てることが妨げられる。特筆すべきなのは、彼が常に安定性を保ちながらそれを遂行することだ。彼は攻撃力とコントロール力を兼ね備えているからこそ、特別な選手なんだ」 まだ20代前半にして男子ツアーを牽引しているアルカラスとシナー。今後もお互いの持ち味を発揮しながら幾多の名勝負を繰り広げてくれることを期待したい。 文●中村光佑