じつは、大腿四頭筋に「あまりに不自然」な筋力を発揮させていた…下山トラブルを防ぐ「4つの対策」を公開しよう
筋肉痛はなぜ起こるのか、どう防ぐのか
筋肉痛は、山道を上るときにではなく、下るときに起こることを説明しました。 運動不足の人はもちろん、下界で何らかのスポーツをしている人でも、初めて登山をすると筋肉痛になる人がたくさんいます。登山は伸張性の筋収縮を長時間にわたり繰り返すという点で、通常のスポーツと比べても特殊なのです。筋肉痛が起こるということは、筋力も低下していることを意味し、転ぶ事故の引き金にもなるので、軽視できないトラブルです。 図「登山頻度と筋肉痛の起こりやすさ」は、登山に出かける頻度と、筋肉痛の起こりやすさとの関係を示したものです。登山頻度が2ヵ月に1回以下の人では、3割くらいの人が筋肉痛を起こしています。 いっぽう、1ヵ月に1回以上山に行く人では、登山頻度が多い人ほど発生率が少なくなります。つまり筋肉痛を防ぐには、登山自体がよいトレーニングになるのです。それまで頻繁に登山をしていた人が数ヵ月ほど中断すると、筋肉痛が起こりやすくなるのも同じ理由からです。
筋肉痛の防止対策
筋肉痛の防止対策として、登山技術に関するものは、下りの疲労の防止を取り上げた記事*で説明したことと同じです。歩幅を狭める、トレッキングポールを使う、歩く動作を工夫する、などに配慮します。体力トレーニングに関する対策としては、次のようなものがあります。 筋トレ:これが最も基本的な対策です。脚筋の中でも、特に大腿四頭筋の強化が重要で、スクワット運動をすると効果的です(図「スクワット運動」)。 有酸素運動:平らな道ではなく、階段や坂道を使って、特に下りの運動を意識して歩きます。エレベーターやエスカレーターがある建物では、上りではそれを使っても、下りでは自分の脚で下りるようにすると、筋肉痛を防止するトレーニングの足しになります。 繰り返し効果の活用:登山時の筋肉痛は、登山そのものを定期的に行うことで起こりにくくなります(図「登山頻度と筋肉痛の起こりやすさ」)。最も効果的なのは軽登山の励行です**。いっぽうで、毎週のように山に行っているのに筋肉痛が起こる人は、山での歩き方がよくないと考えるべきでしょう。 残存効果の活用:筋肉痛を1回だけでも経験しておくと、その後の一定期間は起こりにくくなります。なかなか山に行けない人がハードな登山に出かける場合、その1~2週間前に、本番の半分くらいの負荷の登山を1回やっておくと、一定の効果が期待できます。できれば1~2ヵ月の間にそれを2~3回行えば、繰り返 し効果もあわせて生じてくるでしょう。 身体を降ろしていく局面では、大腿四頭筋で伸張性収縮が行われ、登山の下りと似た状況を体験できるので、それを意識しながらゆっくり下げていく。足の幅は肩幅が一般的だが、慣れてきたら広げたり狭めたりすると、鍛える筋を少しずつ変えられる。「下りで脚がガクガクになる」や「筋の痙攣」を防止する効果も高い。最初は10回×3セットくらいから始めて、慣れてきたら徐々に回数やセット数を増やして、15回×5セットくらいを目標とする *下りの疲労の防止を取り上げた記事:〈じつは、脚が「ガクガクになる」のには、理由があった…下山時に、やったほうが「絶対にラクになる」歩き方〉参照 **軽登山の励行:参考記事〈なんと「減量」どころか、「老化による体力低下」まで防ぐ…運動生理学で露わになった月イチ軽め登山「驚愕の運動効果」〉参照 現代の登山者の最大の弱点は、年齢によらず、筋力やバランス能力の不足にあると筆者は考えています。これらの能力を改善するトレーニング方法については、いずれかの機会にご紹介したいと思いますが、拙著『登山と身体の科学』で詳しくご説明していますので、皆さんのこれからの山行に活用していただければ、と思います。 *次回は、登山に関するトラブルのうち、高山と低酸素環境による疲労について、取り上げます。富士山の山開きを迎えるなど、夏は高山に挑戦する方の増えるシーズンです。是非ご参考になってください。公開は、〇月〇日(□)の予定です。 ---------- 登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術 安全に楽しく登山をするために、運動生理学の見地から、疲れにくい歩き方、栄養補給の方法、日常でのトレーニング方法、デジタル機器やIT機器の効果的な使い方などをわかりやすく解説。豊富なコラムで、楽しみながら知識が身につけられます! ----------
山本 正嘉(鹿屋体育大学名誉教授)