【M&A】表明保証で「売り手の知りうる限り…」はNG 事業売却を不利にする「最終契約書の要注意ワード」
交渉戦略上、株式譲渡契約書等の最終契約書の草案は、売り手の要望を反映したうえで売り手側から提示することが望まれます。本稿では、「最終契約書における具体的な論点」についてみていきましょう。M&A支援を行う作田隆吉氏(オーナーズ株式会社代表取締役社長)が解説します。
表明保証条項の設定
株式譲渡契約書においては、当事者が取引相手に対して一定の事実が真実あるいは正確であることを表明し、保証する「表明保証条項」が定められます。そして、表明保証違反が見つかった場合の責任を補償条項として定めます。簡単にいうと、当事者としての責任範囲を明確にするものです。 中立の支援を提供する仲介サービスを中心とした中小M&A業界においては、売り手の利益を守る観点から表明保証のあるべき範囲が議論されることはほとんどありません。以下では、売り手の利益を守る売り手FAの立場から、売り手が目指すべき表明保証の条件設定について解説します。
補償金額および補償期間
まず、責任金額の上限については、個別の特殊な事情がある場合を除き、売り手の立場からすると譲渡対価の30%以下の水準を交渉で目指すことが望ましいと考えます。特に、譲渡対価の手取り額の大半を失うような責任範囲の設定は受け入れるべきではありません。 また、補償期間についても、売り手の立場からすれば半年から1年、あるいは「買収後の1決算期の定時株主総会まで」といったなるべく短い期間を目指して交渉することが望ましいと考えます。数年という長期にわたり、売り手にとって不確実な状況が継続される状況は避けるべきでしょう。 なお、対象会社の存続、株式の所有権、売り主の契約締結権限に関する表明保証など、まさに取引の根幹をなす基本的事項に関する表明保証を基礎的表明保証といいます。基礎的表明保証については、その違反に対しては、他の表明保証と比べて上限金額はより高く、保証期間もより長く設定される場合がありますが、この点に関しては一定、売り手としても許容せざるを得ないでしょう。 また、補償金額の設計に際して、各補償事案の最低金額(=免責基準)を定めることがありますが、一般的にこの免責基準は補償上限額や期間などと合わせて交渉が行われるべき性質のものです。補償実務に関する双方の負担を軽減する目的も勘案して、合理的に許容可能な水準で免責基準の合意を目指すことになります。