ヤマハXSR700は「見た目だけでなく、乗り味も旧車風。そこが良い。」
スポーツ方向に進んだMT-07に対し、おおらかな走りができるXSR700
ここから具体的な乗り味について。そもそもの話をするなら、2014年に登場した初代MT-07は、現代的なルックスからは想像しづらいけれど、(いい意味で)旧車的な資質を備えていたのだ。コーナー進入時のフロント周りの舵角の付き方は、ライダーを導いてくれるかのような優しいフィーリングだったし、コーナーの立ち上がりでアクセルを開ければ、低荷重低速域でもなかなかのトラクションが得られた。 だから日本の至るところに存在するチマチマした峠道、見通しや舗装状況が良好ではない場面でも、スポーツライディングが楽しめたのである。 そしてそういった特性は2017年にデビューした兄弟車、MT-07の基本設計を転用して生まれたXSR700も同様だった。 ところが、2021年に登場した3代目MT-07は、快走路で真価を発揮する、現代的でスポーティなキャラクターに変貌を遂げていたのだ。 乗り手が適切な操作を行えば、従来型とは一線を画するシャープなコーナリングが満喫できるし、ハードブレーキング時の安定感や、旋回中に路面の凹凸を通過した際の収束も、従来型より明らかに良好。また。初代の時点で容易だったフロントアップが、さらに気軽に行えるようになったことも、3代目ならではの特徴だろう。 そんなMT-07の進化を、同業者の多くは高く評価したものの、初代に好感を抱いた身としては、そこはかとない疑問を感じなくはなかった。もっとも2022年に仕様変更を受けたXSR700を試乗した際は、それ以前と変わらない特性、つまり初代MT-07と同様のフィーリングに安堵を覚えたし、同条件で3代目MT-07と現行型XSR700を比較した僕の中では、3代目MT-07に対する疑問が消え、それどころか、XSR700とのキャラクターの差別化に感心することになったのである。 いずれにしても、現行型のMT-07とXSR700は似て非なる乗り味だから、ルックスだけで安易に選ぶと後悔する可能性がありそうだ。まあでも逆に考えれば、ストリートファイター然としたMT-07は現代的なスポーツ性、クラシックな雰囲気のXSR700は旧車を思わせる資質を備えているので、2021年型以降の2台は、ルックスと乗り味が合致したと言えなくもないのか……。 さて、車体の話が長く続いてしまったが、当記事の撮影で久々にXSR700を走らせた僕は、クロスプレーン2気筒の魅力を改めて実感。このエンジンの最大の特徴は、ライダーにとってノイズになる慣性トルクを低減する一方で、燃焼トルクが瑞々しく伝わってくることだ。その特性はコントロール性の向上、主に高回転域でのスロットルの開けやすさにつながる。ただし、不等間隔爆発が絶妙な鼓動感を発揮してくれるから、スロットル開度を一定に保ってのマッタリ巡航も相当に楽しい。 もっともそういった感触は、ほかの兄弟車でも得られるのだけれど、XSR700を走らせていると、マッタリ巡航での充実感が際立って感じられる。おそらくそれは、大らかで牧歌的なライディングポジションと、旧車的な資質を備えるシャシーのおかげだろう。 レポート●中村友彦 写真●岡 拓 編集●上野茂岐