「勝ちたかったなぁ」RIZINのリングで覚悟を示した41歳・金原正徳の“生き様”。息子に伝えたベルトよりも価値のある金言とは?
予想外の結果であり、予想通りの結果でもあった。 4月29日に東京・有明アリーナで開催された『RIZIN.46』のメインイベント・フェザー級タイトルマッチ。同級王者の鈴木千裕に金原正徳が挑んだ一戦は、鈴木がワンサイドのTKOで勝利を収めた。1999年生まれ、23歳のRIZIN最年少チャンピオンが41歳の最年長チャレンジャーを下して初防衛に成功した。 【動画】決着後、健闘を称え合う王者・鈴木千裕と金原正徳の一部始終 キックボクシングのチャンピオンでもある鈴木は拳を大胆に振るうストライカー。対する金原は経験豊富なオールラウンダーで、前戦では元王者のクレベル・コイケ(ブラジル)に完勝を収めている。トータルな実力で言えば、金原が間違いなく上。そんな声は多かった。一方で鈴木の勢い、爆発力を支持する声もあり、どちらにしても「面白い試合になる」と語っていたのは金原自身だった。 そして、実際にそうなった。序盤、鈴木は金原のテイクダウンを阻止すると打撃で主導権を握る。1ラウンド終盤、一気にラッシュをかけると倒れた金原にパウンドを連打。圧巻の攻撃でレフェリーストップを呼び込んだ。 今回の試合では、金原から学ぶことも多かったという23歳の王者は歓喜を味わうと、さらに「高みを目指す」と誓った。それは王者として、選手としての精神性だ。「チャンピオンは“ズッシリ”構えてなきゃいけない」と豪語する。一方、痛恨の敗北を喫した金原は「ガードの上から効かされてしまった」と試合を振り返るが、その姿は落ち着いていた。 「やれることはやってリングに上がったので。悔いはないですね」 そう語った41歳のベテラン・ファイターはひとまずは戦列を離れ、休養を取ると明言。「またやりたくなったらやるし、(プロモーターから)求められなければそれまでだし」とも話し、今後の復帰についても含みを持たせた。
金原のデビューは2003年。実力が本格化してきた頃に「PRIDE」「HERO's」という地上波メジャー団体がなくなった。世間からの格闘技への注目度が薄れる中で、09年に戦極フェザー級王者に輝くと、その年の大晦日には故・山本“KID”徳郁に勝利している。 さらにはUFCにも参戦。自身の強さを図り、より強い相手を求め、さまざまな団体に参戦してきた。「自分はずっと光を浴びてきた選手ではない」と表現する金原。そんな男が、ベテランと呼ばれるようになってRIZINで連勝、41歳にしてタイトルマッチにたどり着いた。その過程だけでも十分すぎるほどにドラマチックだった。 「本当に最後のつもりで、その覚悟を持ってリングに上がりました」 それだけの思いがあるから、完敗にも悔いは残らない。リングで見えるものだけでなく、その背景、生き様も格闘技の魅力だと彼は考えている。そして自分の生き様に関して、何も恥じることがない。 勝ち名乗りを上げた王者・鈴木に対しては、「俺に勝ったんだから(格闘技界を)背負ってもらわないと困りますよ」と語った金原。同時に「勝ちたかったなぁ」と笑う場面もあった。その姿は、勝者と同じくらい魅力的だった。 試合会場に向かう時、金原は息子にこう伝えたそうだ。 「大事な話があるぞ。勝負の世界は、勝つことも負けることもある。でも、精一杯やれば誰かが見ててくれる。だから、パパの頑張る姿を見てて」 人生いいことばかりではない。負けることを教えるのも教育だと金原は言った。負けてもまた頑張る姿、“親父の背中”を見せるのだと。 試合翌日は平日。ベテラン・ファイターの息子は、鈴木vs金原の記念Tシャツを着て学校に向かったそうだ。その姿は、もしかしたらチャンピオンベルトより価値があったのかもしれない。 取材・文●橋本宗洋
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